こんにちは! 才能心理学協会・認定講師で二代目経営者の澤田浩一です。
前回のコラムで二代目経営者の役割は創業者が生業として起こした事業を社会に根付かせることだと述べました。そのことを別の事例を通してさらに見ていきましょう。
二代目が引き継いだとき、あるいは先代のいる会社に入って取締役などの地位についたときによく起こるのが、二代目の経営への考え方ややり方が先代のそれと異なるので、社内で摩擦や衝突を生んでしまうこと。
なぜなら先代である創業者というのは、ある種のカリスマ性をもって強いリーダーシップで会社を引っ張っているからです。そのため、創業者が持つ能力を最大限活かせるような組織のあり方とか仕事の仕方とかが作られますが、それはあくまで創業者のカリスマ性に支えられるもの。
一方、二代目には当然のことながらそのようなカリスマ性は持ち合わせてはいないので、組織のあり方を自分なりに変えていかざるを得ません。
そうすると大抵の場合、何らかの摩擦が社内に起こります。特に先代創業者が社内で健在している場合は激しい衝突が起こることさえあります。
例えば先日マスコミで騒がれた大塚家具の内紛劇。
大企業を舞台にした親子喧嘩のような報道の仕方がされていましたが、実は創業者と二代目の経営のやり方をめぐる対立であったことがわかります。
大塚家具は1969年に大塚勝久氏が立ち上げた家具店です。埼玉県春日部のたんす店を一代で株式公開企業まで育て上げました。
創業者の勝久氏が取った手法が、「会員制」という販売手法。
広大なショールームを設けて高級な輸入家具を置き、大量のチラシを配布して、新築などで家具を一式揃えたい目的買いの客を店舗に呼び込むという販売手法です。
目的買いなので、当然のことながら購買率は高い上、受付で客の属性やどんな商品が欲しいかを聞き取り、商品説明のスタッフをそこにつけることで効率的な販売を行い、創業者として会社を成長拡大させてきました。
ところが日本のデフレが強まる中、そのビジネスモデルがうまく働かなくなってきました。
一つは高級志向から価格が低いものへニーズが高まり、当初ターゲットにしていた「高くても良いもの」を求める中間層が激減したこと。
そして新築の家に家具を一式揃えるという風潮が無くなってきたこと。
IKEA(イケア)やニトリなどの新興勢力が急成長したこと。
これらの要因から従来のビジネスモデルに限界を感じ、改革しようとしたのが勝久氏の長女・大塚久美子氏です。
久美子氏はチラシの配布などで使われる巨額な広告宣伝費を押さえ、Webとリアル店舗の連携やショールームの受付を目立たなくして客が来店しやすいようにするなど、改革を図っていきます。また外部取締役を入れ、コーポレートガバナンスを強化します。
このことは言ってみれば、先代の勝久氏が築き上げてきたビジネスモデルの否定。
それが今回の株式総会での議決権の争奪騒動に繋がったわけです。
創業者というのは普通の経営者とは違います。例えばココ・シャネルにしても、スティーブ・ジョブスにしても特異な能力を持っているからこそ創業者として成功しています。
現場で叩き上げた直観力や強力なカリスマ性があり、自分が行ってきたことが絶対だと信じています。
このことは逆に言えば、企業を取り巻く環境が変化しても、自身の成功体験からなかなか抜け出せず、硬直化してしまうことを意味します(そのためにジョブスも一度はアップルから追い出されています)。
一方、二代目は会社が長く存続していくことが目的です。なぜなら企業の価値が上げられなかったら財産が無くなってしまうから。
必然的に社会の中で企業をどのように根付かせていくかが会社の大中の規模を問わず、大切になります。
星野リゾートの星野佳路氏は日経ビジネスのインタビューで、時代や環境の変化についていくためには全てをぶち壊すことが必要な時もあり、そしてそれは息子や娘にしか取れない手法だと述べています。
私も同感です。創業者自身が後進のことを考えて身を引かない限り、普通の社員ではドラスティックな改革はできないでしょう。
二代目はこの役割を十分に意識しながら、会社存続のために経営者としての能力を伸ばしていかなければならないと改めて思う次第です。