芸術の才能は遺伝あるいは努力、どちらの比率が大きいか知っていますか。「芸術は才能だから」「芸術に秀でた家系ではないから」などと考えている人は多いようです。
実は、芸術の才能は努力によって伸ばせる可能性があります。この記事では、芸術の才能への影響について、遺伝と努力の両面から解説。才能を伸ばすための具体的な手法も紹介します。芸術的才能は遺伝か努力かを知りたい人は、ぜひチェックしてみてください。
行動遺伝学で考える「芸術の才能はどれくらい遺伝する?」
芸術的センスを確かめたり遺伝の割合を出したりするための方法があります。
行動遺伝学とは
芸術的才能を測る方法のひとつに「行動遺伝学」があります。人と人の違いを遺伝あるいは環境どちらの影響を受けているかを確かめる研究法で、最もポピュラーな手法は、同一家庭(環境)で育てられた一卵性双生児および二卵性双生児の類似性を比べる「双生児法」です。
一卵性双生児はひとつの受精卵から生まれるため、全く同じ遺伝情報を持っています。一方、二卵性双生児は異なる受精卵から生まれるため、同じ遺伝情報は半分程度。これは兄弟と比べた場合と同じです。
双生児法では、環境の共有度と遺伝子の共有度を関数として表現します。
共有環境の影響は、一卵性双生児も二卵性双生児も同等です。よって、同じ家庭(環境)で育てられた一卵性双生児同士の相関係数が二卵性双生児を上回っていれば、遺伝の影響があると考えることができます。反対に、一卵性双生児と二卵性双生児の相関係数に差がないようであれば、双生児の類似性は環境に起因している、ということになるのです。
加えて、同一家庭で育った一卵性双生児であっても類似しない要因があれば、個人独自の環境、つまり非共有環境によるものであると考えられます。
芸術センスの才能は遺伝の影響が50%
身体の特徴や能力は、遺伝の影響を受けるものと、環境が影響するものの2パターンです。たとえば知能の場合、遺伝の影響が60%程度、性格に至っては30〜40%程度といわれています。つまり、遺伝と環境の比率は内容によって異なるのです。
行動遺伝学によれば、芸術センスの才能は遺伝が50%程度であるとされています。ただ、芸術的センスは科学的・客観的に測定することが難しいため、エビデンスが乏しいのが現状です。よって、測定が可能であるリズム感や絶対音感などの音楽の分野における要素について見れば、遺伝の影響は50%程度となっています。
芸術的才能は「努力」で伸ばせる
先ほども少し触れましたが、遺伝の影響を受けやすいものの一つに、知能があります。特に、知能に最も関係する前頭葉の表面積や密度、厚さは80%が遺伝です。加えて環境の影響を受けやすい学童期でさえも、遺伝の影響を50%受けるといわれています。
一方、芸術の才能は、後天的なものであるとされています。絶対音感は6〜8歳頃までの訓練によって身につけることが可能であり、何年か音楽の勉強をしたあとでは、脳のなかで音を処理する部分が広がることもわかっています。
つまり、練習をすることで芸術的才能は伸ばすことが可能なのです。「勉強は努力・芸術は才能」というイメージが強いですが、遺伝的には逆で、「勉強は才能・芸術は努力」の割合が大きいといえるでしょう。
したがって、芸術的才能に直結している発想力も、後天的に鍛えることができる要素の一つです。
自由なアイディアを生み出すための思考法として「ラテラルシンキング」というものがあります。ロジカルシンキングが論理的思考法であるのに対して、ラテラルシンキングとは、固定概念を取り払って物事を見ること、新しい組み合わせ方を考えることで発想を広げていく思考法です。
芸術的才能を開花させるには、その手法を知り、努力することが必要といえるでしょう。
芸術的才能を伸ばす方法を具体的に紹介
芸術的才能を伸ばすためには、創造的思考力を高めることが近道です。人間は大人になるにつれて、最適な問題の解決法を会得することで、直感的思考より論理的思考が強くなる傾向になります。よって、創造的に答えを導きにくくなるのです。
直感的思考を維持できるよう意識改革を行うことは、結果として創造力を高めることにつながるでしょう。
創造的思考力を高めるには、まず思考を自己観察したり自己抑制したりする必要があります。その例として、「問題を違う観点から考えてみる」「一度問題から離れてみて、ほかのことを考える」といった思考の習慣を身につけることが有効です。
創造的思考力を高めるための訓練法や手法を3つ紹介します。
NM法
「NM法」とは、創造工学研究所所長・中山正和氏によって考案された手法で、問題解決や創造性開発に有効です。
最初にキーワードを定めて、一定の手順で類似するものから連想を繰り返し、選択することで、問題解決するための具体的なアイディアを引き出すことができます。
NM法は、どんな問題であっても解決のヒントは自然界にすでに存在しているという考えに基づいています。たとえば、新幹線の形状のアイディアはカモノハシがヒントとなっているように、遠く離れた概念にあるもの同士を結びつけることで、独創的な発想を導くことができるのです。
ブレインストーミング法
「ブレインストーミング法」とは、アメリカの実業家・オズボーンが考案した複数人で行う会議の手法です。マサチューセッツ工科大学ではブレインストーミング法についてまとめられた本がテキストとして採用されています。
まずある議題に対して、自由かつたくさんのアイディアを出します。ここで注意したいのが、アイディアに対して一切の批判は禁止であるということ。アイディアが出尽くしたら、次に実際に使えそうなアイディアをピックアップしていきます。
複数人でアイディアを出し合うことで、他者の考えを共有したり、あるアイディアから連鎖反応が起きたりすることが期待できます。アイディアが出れば出るほど、良質なアイディアが増えていくでしょう。
KJ法
「KJ法」とは、文化人類学者・川喜田二郎氏によって考案された手法で、1967年に川喜田氏の著書『発想法』で紹介されました。アイディアを効率よく整理・グループ化してまとめていく手法です。
まずブレインストーミング法などで出たアイディアをカードやラベルに書き込み、ラベルを共通点ごとにグループ化します。次にさらに大きな紙にラベルを貼り込み、ラベル同士の関係を見ます。
バラバラの考えをラベルに書き込むことで見える化し、グループ分けをして体系化することで考えを整理しやすくなります。
近年では、カードやラベルにポストイットを使用したり、大きな紙を壁やホワイトボードで代用したりする方法が人気です。グループ分けする際に移動させやすいツールを使用しましょう。
まとめ
芸術的な才能は、遺伝と環境の影響がそれぞれ50%であることがわかりました。芸術は後天的に伸びる要素であるため、たとえ身内に芸術の分野で秀でた人がいない場合でも、努力によって才能が開花する可能性があるでしょう。
芸術の才能を伸ばすには、創造的思考力を高めることが近道です。しかし、才能の伸ばし方を知っているだけではもちろん意味がありませんよね。自分に合った手法を試したうえで、実践に活かすことが求められるでしょう。