こんにちは! 才能心理学協会・認定講師で二代目経営者向けコーチの澤田浩一です。
二代目経営者にとって大きな悩みのひとつ、それは創業者からの“口出し”ではないでしょうか?
「自分らしく経営がしたい」
「創業者とは違う私なりの今まで得てきた知見や考えがあるのだから、黙って見守っていてほしい」
「あとは困ったときだけ相談に乗ってほしい」
というのが創業者の子どもでもあり、二代目でもある後継者の本音です。
事実、事業継承のコツは、創業者は後継者を決めて任せたなら、口は出さずに黙って見守るべき、などということが書かれている本も見かけます。
とこが実際に“口出し”したいのが創業者というものです。
そして継いだころはまだ創業者の息のかかった番頭をはじめ、古手の社員もいます。
創業者は口出しするわ、社員は創業者の顔色ばかりを見るわ、では二代目は頭も胃も痛くなります。
しまいには「親子げんか」状態になってしまうこともあると思います。
そうなると親の嫌な面ばかりが目に入ってしまうので
「なんでうちの親父はうるさいんだよ! (父として先輩経営者として尊敬したいから)好々爺でいてくれよ!」と言いたくなります。
実は私の場合は、引き継いだ当時は別の会社に勤めていました。
先代である父が高齢のため、会社の番頭をはじめ私に後を継いでほしいと説得されて継いだのですが、そのせいもあり幸いにも古手の社員の人たちには守られた方です。
引き継ぐと同時に父は会長職には留まりましたが、会社には出なくなったので私が毎月、経営報告を会長宅に持って行き説明する、ということをしていました。
ほとんど思い出せないのですが、それでも小言は行くたびに言われたように思います。
大きな対立もありました。
その中で最も大きかったのが引き継いだ直後、会社にキャッシュがほとんどなかったので思い切って借入をしたときです。
借入を行ったときは、それを知ってか知らないでか、父は急に退職金を払えと要求してきました。
退職金は創業者として当然のことだろうと思うのですが、いかんせんお金がない。
借入で少し落ち着いたけれど、退職金には当てられないので分割でとお願いしてみました。そうすると烈火のごとく怒りだし、即、全額払えと言います。
「会社の財務状態を知っていて、それを今言うか!」
と、さすがにその時はブチ切れて父に怒鳴り散らしていました。
(一度言い出すと梃でも動かない人なので、結局は支払いましたが)
日清食品ホールディングスCEOの安藤宏基氏の著作「カップヌードルをぶっつぶせ!」にも二代目経営者と創業者の対立がよく描かれていて、読んでいてとても共感できます。
同時に創業者のこともよく理解できます。
安藤氏が言うように、創業者にとって会社は「自分が育てた子どものように可愛い」のです。
一生目が離せないほど可愛いから会長となって経営の中心から離れるとうれしいと同時に寂しい。
寂しくなると人は口を挟みたくなります。
まして創業者は一から事業を立ち上げた人です。ワンマンでやってきたが故に「なぜそうするか」というロジックを説明せずにモノ言うのが普通です。
(安藤氏の言葉を借りると、創業者は「異能の人」、後継者はだいたいが「普通の人」です。)
なので一生懸命考えている後継者には創業者に言われることがカチンと来るのです。
私は二代目には、星野リゾートの星野佳路社長やジャパネットたかたの高田明氏のように、創業者とはまったく違ったビジネスモデルを創りあげる第二創業を行う二代目と、安藤氏のように創業者のビジネスモデルを継承発展させる二代目がいると思います。
私の場合も創業者の創りあげたビジネスモデルを継承発展させるタイプです。
このようなタイプの二代目の場合、どのようにしてビジネスを継承発展させるかということを考える力と同時に、創業者の考えや思いを理解する力も必要だと思います。
もちろん親子関係のこともあるので、すぐには理解しにくいこともあると思います。
(特に「普通の人」がブチ切れるようなことがあった場合には)
ですが事業を継承発展させていくという役割・使命を二代目がもっている以上、時間を掛けてでも理解していくべきだろうと思います。
そのときに前もって理解しておくと良いのが創業者の作った経営理念やビジョンです。
これらには創業者の価値観、コアコンセプトが反映されています。経営理念やビジョンの意味を創業者に聴くことで、創業者の価値観が解かり、どういう思いで経営していたのかを客観的にとらえることができます。
それは創業者とのコミュニケーションの助けとなるでしょう。
私の父が作った経営理念は「信頼される会社、信頼される製品、信頼される人たれ」でした。
どちらかというと現場肌の人で、信頼される会社であるために、信頼される製品をお客様に提供することに情熱を燃やした人だと思います。
そのように父を客観的に見ることができると、何故あのとき父が退職金を全額要求したのかもわかる気がしました。
85歳を超えてまで経営の第一線にいた人なので、会社への愛着も人一倍でした。
わが子同様の会社であったから、自分から会社を切り離すには「退職金」という形でしか切り離せなかったのではないかと思うのです。
心理学では、亡くなった近しい人への思いを癒していく作業を「喪の作業」と呼んでいますが、父にとっては退職金のわが子である会社を手元から切り離すための「喪の作業」を意味しているのではないか、そんなふうに思います。
ちなみに安藤氏は著書の中で創業者とうまく付き合うための「四つの教訓」について述べています。
二代目の方には是非読んでいただきたいのですが、創業者の思いや価値を理解し、自分らしい経営をしていくことが二代目として必要な才能のひとつだと言えます。