こんにちは、才能心理学協会・認定講師で二代目経営者の澤田浩一です。
中小企業の経営を15年もやっていると、心の中にある塊が生まれます。
その塊は普段は表に出ることはありませんが、いつも暗闇の中のどこかに存在していて、ふとした拍子に頭をもたげてきます。
それは「この会社もこのままではいつか倒産するのではないか」という不安感です。
そしてもし倒産することになれば、周りの人たちに迷惑をかけるだけでなく「この年齢で再起など不可能ではないか、充実した人生を今後送ることができなくなるのではないか」、そういう恐れに襲われます。
充実した人生とは、私にとって自分の能力を活かすこと。倒産という出来事で自分の能力を活かす場が失われ、二度と充実した人生を送ることができなくなるという恐怖感です。
ところが先日、NHKの番組で実際に倒産という体験をしながら、そこから立ち上がって自分の能力を活かして活躍されている人を知りました。
日本一自殺率が高かった秋田県で経営者向けの自殺予防の活動を行い、県内の自営業の自殺を三分の一にまで減らしたNPO法人「蜘蛛の糸」の理事長・佐藤久男さんです。
佐藤さんは1943年、実業家のお父さんと優しいお母さんとの間に生まれましたが、小学校2年のときにお父さんが亡くなり、母子家庭になりました。
彼はアルバイトで足の悪いお母さんを支えながら進学を目指します。
佐藤さんはこのころから徹底的な努力家でした。実際、周りからも天才的な努力家との評を受けています。
努力家なのは、おそらく「実業家で亡くなったお父さんを自分は超えたい」という思いをずっと持っておられたからだと思います。
高校卒業後、県庁に勤めていましたが、その思いから退職して不動産業を始め、ついには年商10億円の県内有数の会社までに育てます。
ところが事業を拡大しすぎたのとバブルが崩壊したのが重なり、倒産してしまいます。
強気の社長ほど、倒産すると心がポキッと折れてしまうものです。今まで自分の努力と事業を成功させた自信で事業を拡大させてきたのですから、なおさらです。
佐藤さんも倒産でうつになりました。
実は佐藤さんは40代のときにもうつになった経験があります。それは佐藤さんが天才的な努力家ゆえかもしれません。お父さんを超えたい、という強い思いは事業経営の推進力にもなりますが、逆にそれはアクセルを踏みっぱなしの状態でもあります。アクセルを踏みっぱなしでは心は悲鳴を上げ、反動がきます。それがうつの状態です。
幸い佐藤さんには家族の支えがありました。奥さんや子供たちの助けで、佐藤さんは「会社は人生の全てではない」と思い直し、再起を考えます。
ちょうどそういう時に佐藤さんは経営者仲間の自殺を知ります。以前自殺した三人の経営者の顔も思い浮かべ、「日本経済を支えてきた経営者がなぜ自殺しなければならないのか、それは社会的な構造のせいではないか。」と怒りを感じます。
そこで彼は中小企業の経営者の自殺を予防するために、相談室を設立します。それがNPO法人「蜘蛛の糸」です。
実は佐藤さんは県庁時代に生活保護の担当になり、そこで相談者への支援の方法を学んでいました。相談ではひたすら相談に来られた人の話を聴くという「傾聴」が大切なのですが、傾聴の重要性もそこで学ばれたそうです。
相談に来る人を支援する、というのは佐藤さんの足の悪いお母さんを助けたいという思いと繋がっているかもしれません。
それは「蜘蛛の糸」で相談者としての能力にも活きています。
また自殺相談に来られる経営者(たいていは多重債務)の方は、これからの生活の立て直しをどうするかという経済的な問題と心の問題の二つがあります。
相談ではこの二つの問題を切り分けて取り組んでいくことが大切だと言います。
佐藤さんの不動産事業での経営者の能力は相談に来られる人の現実的な問題解決に役立っています。
「蜘蛛の糸」の活動を始めたことで、佐藤さんの「お父さんを超えたい」という感情から生まれた実務家としての経営者、不動産業者としての能力と、「お母さんを助けたい」という相談者としての能力が一緒になって活きているのだと思います。
佐藤さんの話を見聞きして、倒産は恐怖だし、二代目の役割としては倒産させないということが重要な役割ではあるけれども、たとえそうなったとしても最後の最後まで自分の能力がどこでどう活かされるかはわからない、むしろどのような逆境でも前向きに生きていくことで、自分の能力が活かされていく場所が必ずあるのだと改めて思います。
これを読まれている方で、自分の才能は何だろうか、自分には才能が発揮できないじゃないかと悩んでいる方もいるかもしれません。
ですが、佐藤さんのように逆境に陥っても才能が開花することがあるのだと、ふとどこかで想い出していただけたら、あきらめずに前向きに生きていけるのではないかと思います。