コミットメントの本来の意味は、「関わり合い」や「委任」です。最近では、ビジネスシーンだけでなく、生活の中でも使われる言葉となりつつあります。そこでこの記事では、ビジネスシーンで使うコミットメントの意味を再確認し、心理学の観点からビジネスに活用する方法について解説します。
ビジネスシーンでの「コミットメント」とは
そもそもコミットメント=commitmentは、英語由来の言葉で、「関わり合い」や「委任」、「言質」という意味があります。そこから言葉の意味を紐解いていき、「責任を持って引き受ける」や「責任を持って関わる」といったニュアンスで使われるようになりました。
そのためビジネスシーンでは、「公約」や「誓約」、「承認」、「確約」、「責任を持って参加する」などの意味で使われています。つまり、参加または関わるからには「積極的に取り組む」や「結果を必ず出す」などの強い意味が含まれるのです。
日常生活で使われるコミットメントで、「目標を達成する」や「やり遂げる」のような意味を含んでいるのは、「結果に責任を持つ」といったニュアンスが含まれているからでしょう。ただ、コミットメントには「責任」が常につきまとうため、日常生活で使う言葉というよりは、政治や法律、公約、声明、契約、交渉などのシーンで使う言葉と言えます。
またコミットメントの動詞である「コミット(commit)」を使っている人もいるでしょう。たとえば日本では、「〇〇にコミットする」のように使われ、「〇〇となるよう約束する」という意味になります。
その他には、「コミットできるように頑張る」のような使い方をする人もいるかもしれません。このように、日本語では責任を伴う使い方をする反面、さほど重みのない言葉として使うケースもあります。
しかし英語で「commit」を使うと、語源に「ゆだねる」「すべてを送る」などのとても重いニュアンスが含まれているため、「誓約」や「公言」となり、有言実行が必要となるほどの責任を伴う言葉となることに注意してください。
一貫性の原理とコミットメントには密接な関係がある
次に、約束を貫こうとする心理現象である「一貫性の原理」と「コミットメント」の関係を考えていきましょう。
一貫性の原理とは?
人間がある行動を起こしたときに、「やり遂げよう」や「約束を貫こう」とする心理現象を、心理学の分野では「一貫性の原理」と言います。
人間は、一貫性の原理を「選択が簡単だから」や「社会的に信用されるから」の理由で、無意識のうちに行っていると言われています。具体例は以下の通りです。
◆映画を観始めたものの面白くない、しかし観始めたからには、せっかくなら最後まで観てみようという心理
◆タバコをやめると同僚に言ったために、タバコをやめるのをやめたいと言えなくなる心理
◆ゴルフをしていないにも関わらず、ゴルフについて知っているかのようなそぶりをしたために、ゴルフを知らないと言えず嘘を重ねてしまう心理
どうしてこのような一貫性の原理が働くのかというと、冒頭で説明した「選択が簡単だから」や「社会的に信用されるから」ですが、その理由を詳しく解説していきます。
まず「選択が簡単だから」についてです。人間は、朝起きてから夜寝るまでの間、さまざまな出来事に対して選択しています。たとえば、「朝ご飯は何を食べるのか」「どんな服を着るのか」「電車は何号車に乗るのか」などです。
これらの1つ1つに全力で向き合い、悩んだ末に答えを出していては、エネルギー消費が甚だしく負担になってしまいます。そのため、ある程度同じものを選ぶ自動化を取り入れることで、エネルギー消費を抑えて、もっと重要な出来事について選択や決断ができるようになるのです。
人間は人からの評価を気にしたり、人に認められたりしたい生き物です。「社会的に信用されるから」という理由で、「意見や行動をコロコロ変えるのはあまり良くない」と心の奥底では思っています。 実際に、常に意見が変わるような人間は信用されにくく、周りの人が遠のいてしまう可能性があります。社会的に信用されなければ、社会生活が送りづらくなるだけでなく、他の人とのつながりがなくなってしまうことを無意識のうちに感じているのでしょう。
一貫性の原理とコミットメントの関係
一貫性の原理は、コミットメントすると、さらに強い力が働くと言われています。なぜなら、人を交えて「公約」や「誓約」をすると、コミットメントできなかった際に信用を失う可能性があるからです。自然と「一貫性の原理」を保たなければならないという心理が働くのでしょう。
少し身近な例で説明しましょう。何となくスーツを買いに行ったものの、店員さんに「スーツをお探しですか?」と聞かれ「はい」と答えます。次に店員さんに「新作のスーツが入荷したので試着してみませんか?」と聞かれてしまうと、初めにスーツを探しているという質問に「はい」と答えたために試着せざるを得なくなってしまう事例です。
他人に自分の気持ちを表明したために、一貫性を持たせなければ自分が言ったことが嘘になると感じ、何となくの気持ちをそのように行動せざるを得なくなりました。一貫性の原理とコミットメントは、このような身近なシーンでも起こり、この2つが合わさるとコミットメントがさらに強化されるのです。
「一貫性の原理とコミットメント」をビジネスに活用する
一貫性の原理とコミットメントは、ビジネスシーンでも利用されており、特に営業を成約させたいときやアポを取りつけたいときに有効です。ここでは、「一貫性の原理とコミットメント」と合わせて使いたい人の心理について紹介します。
返報性の原理
人から何かしてもらった場合に、「お返しをしなければ」と思う心理のことです。具体例を出すと、「バレンタインデーにチョコをもらったから、ホワイトデーにお返しする」や「〇〇さんから年賀状をもらったから〇〇さんに年賀状を返さないといけない」などの心情を指します。
日本人の文化で考えると、これは「義理」や「マナー」のように捉えている人もいるかもしれません。しかし返報性の原理は、心理学で扱われるほど有名な現象の1つなのです。
ビジネスで置き換えれば、顧客に「無料サンプルを配布する」「割引クーポンを配布する」などが挙げられます。顧客側からすると、「この前無料サンプルをもらったから、次回説明を聞いてみようかな」や「割引クーポンをもらったから行ってみようかな」などの心情になりやすいのが特徴です。こういった心理を上手に使うとビジネスに応用できるでしょう。
ローボールテクニック
最初に良い条件を提示して、承諾を得られてから、少しずつ不利な条件を提示したり好条件を外したりする手法のことです。
たとえば、BさんがAさんに「Cさんを含めた3人でご飯に行かない?」と誘われたとします。前提として、AさんはBさんと食事に行きたいものの、Bさんは行きたくありません。ただBさんはCさんが来れば食事に行っても良いと思っています。そのため、「Cさんが来るなら良い」と思って、Bさんは「了承」します。
しかし後日Aさんから「Cさんが来られなくなった」と言われた場合、Bさんは前に了承したために、断りづらくなるといったものです。一貫性の原理を上手く組み合わせた手法で、さまざまなシーンで用いられます。
ビジネスで考えると、「簡単なアンケートにお答えいただければ新発売の商品を差し上げます」と案内します。顧客は「アンケートに答えるだけで新発売の商品がもらえるなら良い」と考えますが、実際には15分ほどかかるようなアンケートだとしましょう。すると顧客は、最初簡単なアンケートと言われた条件が少し変更となっても、「仕方がない」と変更点を受け入れてしまうのです。ただし、こういうことが重なると信頼を失ってしまうので、注意しましょう。
フットインザドア
相手が承諾してくれそうな簡単な内容をいくつか提案して承諾を得てから、本題を提示する手法で、交渉を行うときによく用いられます。
日常でいうと、「15分仕事を手伝ってほしい」と伝え了承してもらい、その仕事が終わった後に、「ごめん、もう少し手伝ってくれる?」とお願いします。それも了承してもらい、仕事が終わった後に、「もう少しかかりそうだから残業をお願いできない?」と言われると了承してしまうという心理です。
何度か仕事を手伝うのを了承したために、「手伝うって言ったし…」と無意識のうちに一貫性の原理が働いてしまいます。ビジネスでは、「3分お話を聞いてもらえませんか?」から始まり、「とりあえず試してみてください」と段階を経ます。そして最終的に契約してもらうといった流れで活用できるでしょう。
相手が承諾してくれる簡単な要求から段階を経ていくため、時間をかけて少しずつハードルを上げていくのが、フットインザドアを成功させる秘訣です。ただ、このテクニックも多用すると信用を失ってしまうので注意しましょう。
まとめ
日常的に使われるコミットメントという言葉には、さまざまな意味や使われ方があることを理解できたはずです。また一貫性の原理とコミットメントを組み合わせると、より強固な作用が生まれ、ビジネスシーンでも有効なツールとなります。
ただ、これらの心理学の知識やノウハウは知るだけは意味がありません。内容を正しく理解して、上手く活用する必要があるからです。また、むやみに使っても成功しないでしょう。最終的には、自分の才能を活かすことが重要であって、その才能をさらに活かすために使うツールと考えてください。