部下に対し、「もっと仕事に対してやる気を出してほしい」「成長意欲を持ってほしい」などといった思いを持っている上司は多いのではないでしょうか。仕事に対する意欲が低く、やる気が出ないのには、実は本人のモチベーション以外にさまざまな要因があります。
この記事では、部下の「仕事のやる気でない」という問題に対し、その要因とやる気を出すのに有効的な心理学を解説します。具体的な例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
心理学で見る「やる気が出ない要因」とは
はじめに、仕事でやる気が出ない要因について見ていきましょう。アドラー心理学に基づくと、やる気が損なわれる原因として、大きく3つの要因があります。
目標が見えていない状態
1つ目の要因は、達成すべき目標が見えていない場合です。
上司から「やる気を出せ」と言われても、目標が見えずどこに向かっているのかわからない状態であれば、人はやる気の出しようがありません。目標が見えていなかったり、見失っていたりしていることが原因で「仕事のやる気でない」という部下に対しては、まずは部下自身の目標を明確にすることから始めましょう。
目標と現実にギャップがある場合
2つ目は、明確な目標があっても、それと現実とのギャップが生じている場合。
これは日頃から劣等感を抱いていたり、「どうせ自分なんて…」が口癖になっていたり、自分自身に対する評価が極端に低い人に多く当てはまる要因です。目標と現実に多少のギャップがあるのは当然のことですが、そのギャップを有効な動機付けとして正しく扱えていれば問題ありません。しかし自己評価が極端に低いと、目標と現実のギャップに劣等感やコンプレックスを抱き、やる気を失うことがあるため注意が必要です。
目標が高すぎる
3つ目は、高すぎる目標を掲げている場合です。
仕事において目標を高く掲げ突き進むことは、一見すると正しい姿勢にも見えます。しかし、アドラー心理学では高すぎる目標もやる気を失ってしまう要因としています。理由として、設定した目標が高すぎると「こんなの無理だ」「達成できないだろう」と、挑戦する前から諦めてしまう可能性があるからです。
部下が上司に高すぎる目標を課せられ、未達成に終わり挫折感を味わうことでやる気を失ってしまうといったケースもあります。これは上司自身が高い目標を掲げなければと思い込んでしまい、部下の個々の裁量や能力に応じた適切な目標設定ができていないことが原因です。
部下のやる気を出すのに有効な「自己決定理論」
部下の「仕事のやる気でない」という状態を解決するのに有効な自己決定理論。これは、1970年代から1980年代にかけてアメリカの心理学者であるリチャード・ライアンとエドワード・デシによって提唱され、広く知れ渡った理論です。
自己決定理論は考え方の大前提として、「人は生まれつき好奇心や探究心を持っており、活動的で創造的だが、人を取り巻く環境および状況次第で、その本性は強められることも弱められることもある」というものがあります。そして、人には生存のための生理的欲求のほかに、「自律性」・「有能感」・「関係性」の3つの欲求があり、これらが満たされることで行動が促され、人は成長へと導かれます。
仕事において意欲を高めてやる気を出すためには、この3つの欲求を満たすことが効果的であり、うまく活用できれば部下の力を最大限に引き出すことも可能です。それでは、3つの欲求について詳しく見ていきましょう。
自律性
自律性とは「自分の行動は自発的で、他者からの強制や指示・命令ではなく、自ら考え承認を与えたものだ」と実感したい欲求のことです。仕事においては部下に対し、「仕事を受けるかの判断を本人にゆだねる」や、「信頼して任せる」など、部下による自主的な意思決定を促すことによって満たされます。
ここで注意が必要なのは、自律性と独立を混同しないこと。自律性と独立は概念が異なり、他者に頼ると独立していると見なされないですが、自分の意思で自ら求めて他者に依存するのは自律性と捉えていいでしょう。
有能感
有能感は、「自分には能力があって優れており、その能力が効果的に発揮されている」や、「自分は社会の役に立つ存在である」ことを実感したい欲求のことです。実績を積むことや、仕事での失敗を克服することによってこの欲求が満たされます。
また、仕事を通して達成感を得ることや、上司や同僚から誉められ認められることも有能感を高めるために重要なポイントになります。
関係性
関係性とは、「他者と交流し、他者を気遣い、精神的に結びつきたい」という欲求のこと。他者と関わり愛し愛され、社会や集団に属し、信頼関係を維持している実感を持つことが大切で、特に親や友人、上司、同僚などの他者とのつながりが大事です。
仕事においては、失敗した場合でも、その失敗を克服するために手を差し伸べてくれる仲間や上司がいる場合に欲求が満たされます。部署やチーム間でしっかり連携し、充実した協力体制をとることが大切と言えるでしょう。
自己決定理論を活用する具体的方法
次にこの自己決定理論を活用する具体的な方法について説明します。
部下を信頼して任せる
部下を信頼し、仕事を任せてみましょう。部下が「自分にはまだ無理かも…」と感じる規模のプロジェクトや仕事をあえて任せてみるのも良いかもしれません。
このとき大切なのが、目標を高く設定しすぎないことと、上司によるアドバイスやサポートを欠かさないこと。そして無事に目標を達成し仕事が完了したら、2人きりのときでも人前でも、その成果を誉め称えましょう。目標が未達成に終わり、失敗した場合でも、「失敗したという状況を自分の力で変えたい」という部下の気持ちを尊重することが大切です。
周囲と密接な関係を持たせる
周囲の人と密接な関係を持たせることで、関係性の欲求を満たすことができます。これには、チームを組んで上司や同僚と共に仕事を進め、困った場合にはいつでも助け合える環境を作ることが大切です。
また、仕事以外で気軽に話せる場を提供するのも一つの方法。食事やお酒を楽しみながら、職場の問題や仕事の愚痴をこぼすことはガス抜きにもなり、精神の浄化に効果的です。部下の話に耳を傾けた上で、自力で問題を解決するチャンスを与えれば、自律性の欲求を満たすことにもつながります。
仕事を正しく評価する
部下が仕事で目標を達成し、いい結果を残した際には、それに見合った高い評価をきちんと与えましょう。努力に見合った正当な評価を受けることで有能感が満たされ、「これからもこの調子で頑張ろう」とモチベーションが高く維持されやすくなります。
ただし、目標の達成や成果をあげることにこだわりすぎると、反対にモチベーションが低下してしまう恐れも。その場合は達成可能な目標を設定したり、定期的に目に見える形で努力を労ったりすることを意識するといいでしょう。
まとめ
やる気の仕組みを知り自己決定論を活用すれば、仕事に対するやる気を引き出し、モチベーションを高く維持させることは不可能ではないでしょう。ただし、心理学の知識やノウハウを知るだけでは意味がありません。大切なのは部下の才能を見つけ存分に活かすことと、その環境作りをすること。ぜひ今回紹介した内容を参考に、職場でも3つの欲求を満たす取り組みを行ってみてください。