「嫌われる勇気」でわかるドナルド・トランプ勝利の理由

アメリカ大統領に選出されたドナルド・トランプ氏が巻き起こした「トランプ現象」。

この現象の心理的な背景は「嫌われる勇気」で一躍有名になったアドラー心理学で見るとよくわかります。心理学は個人向けに語られることが多いですが、国家や企業も人の集団。グループ心理を読み解くことにも使えるからです。

嫌われる勇気を地で行ったドナルド・トランプ氏。

「なぜアメリカの人々が彼を支持したのか?」

キーワードは劣等コンプレックス、勇気付け、共同体感覚の3つです。

私の専門は才能心理学で、アドラー心理学ではありませんが、昨日クライアントに話すと「アドラー心理学の物の見方がわかった」と言われたのでシェアーします。

嫌われ者 ドナルド・トランプ

人種差別、女性蔑視、反グローバル主義・・・。

さまざまな発言で物議を醸した嫌われ者、ドナルド・トランプ氏。

大統領選挙翌日の今日も、アメリカの8都市で反トランプ・デモが起き、CNNでは「アメリカ全土に不安が広がっている」、「長い時間がかかるが、私たちはこの傷を癒さなければならない」、「1つになろう」とコメントが流れています。

「なぜ、大統領選挙の後に、傷を癒すというメッセージがニュースで流れるのか?」日本に住んでいるとピンとこないかもしれませんが、それはオバマ政権誕生後の8年間でアメリカという国が1つの共同体ではなく、分裂した共同体を抱える国になったからです。

第1のポイント「劣等コンプレックス」〜超格差社会アメリカ〜

Google、Amazon、facebook。

Airbnb、Uber、テスラモーターズ。

世界を席巻するITベンチャーの発信地はすべてアメリカです。

成功者や超富裕層がたくさんいますが、一方で、格差が酷いのもアメリカのもう1つの顔。先日BSで放送されていた「変貌するアメリカ ~2016米大統領選を読み解く~」を見ると、ホームレスになった人がテント暮らしをしながら出勤している様子が流れていました。

印象的だったのは元炭鉱夫の50代の男性。祖父、父ともに炭鉱夫だった彼は仕事に誇りを持ち、3代目として炭鉱夫としての人生を地元で全うするつもりでした。しかし昨年、CO2削減政策にともない炭鉱は閉鎖。失業し、職安に通う日々を過ごしています。

昨年までの年収は日本円で1500万円とのこと。映画「フラガール」を見ると、日本では1970年代に炭鉱産業が消えています。その感覚からするとびっくりするほどの年収です。

「良いアメリカがなくなった」

「昔のアメリカを取り戻したい」

「私たちが知っているアメリカが消えていくのが怖い」

これは彼と同じ街に住む人たちのコメントですが、サブプライムローンによりリーマンショック後のアメリカでは中産階級が没落し、共同体は崩壊。経済的にも、精神的にも見捨てられ、置き去りにされた人々が激増。彼らはグローバル化が進む世の中で、あらがうすべがなく劣等感と怒りを持っていました。

格差社会で、経済的に苦境に陥ると「何をやっても無駄」「努力しても貧困から抜け出せない」と諦めムードに囚われます。これはアドラー心理学でいう劣等コンプレックス。最近では学習性無力症といわれています。

劣等コンプレックスとは劣等感を使って、ライフタスク(人間が抱える問題)から逃れようとすることで、たとえば「自分は頭が悪いので勉強をしても無駄だ」ときらめることです。

この気持ちがわかる人は多いと思います。「アベノミクスで株価が上がっても豊かになったと感じられない」という日本人は多いですが、非正規雇用の割合が4割になり、経済的理由で結婚を諦める若者が増え、貧困女子や下流老人という言葉がメディアに溢れる日本も同じ道をたどっています。

経済的側面で、こうしたムードがアメリカを覆い、絶望や不満がたまっていた。そこに登場したのがドナルド・トランプ氏です。

第2のポイント「勇気付け」 〜見捨てられた人々のリーダー達〜

ドナルド・トランプ氏が彼らに語りかけたのは、

「君たちは間違っていない」

「間違っていたのは政治家だ」

「ウォール街だ」

「私は強いアメリカを取り戻す!」

というメッセージ。古き良き時代、愛するアメリカを失い、劣等コンプレックスに囚われていた人々を勇気付けたのです。

嫌われる勇気によれば、アドラー心理学の勇気づけとは「いまの自分」を受け入れ、たとえ結果がどうであったとしても前に踏み出す勇気を持ってもらうこと。

他者から承認を求めることも否定するので、アドラー心理学の専門家は「ドナルド・トランプがしたのは勇気づけではなく扇動だ」というかもしれません。しかし、彼を熱狂的に支持したアメリカ人にとってトランプ氏は間違いなく勇気付けてくれたリーダーだったのです。

嫌われる勇気には「他者の期待を満たす必要はない」というフレーズも出てきます。

トランプ氏はこれも実行しました。彼の発言のすべては没落した中流階級や労働者に向けたメッセージ。それ以外の人の期待を満たす必要も、好かれる必要も感じていない。トランプ氏がバッシングの嵐の中でも、自由に発言を続けたのはそれが理由です。

トランプ氏とは対極の位置で、同じく格差社会の被害者の声を拾ったのが民主党のサンダース氏。

社会主義者とも揶揄された彼は20代の若者から熱狂的な支持を得ていました。その理由の1つが大学教育の無料化。たとえばアメリカの名門ハーバード大学の年間授業料は約700万円。4年間で2800万円です。それだけの学費を出せる一般家庭はほとんどありません。

しかし、一流大学を出ていなければいい給料の仕事にはつけない。選択肢が限られているのも自由の国アメリカが抱える矛盾の1つです。サンダース氏は民主党予備選でヒラリー・クリントン氏に敗れましたが、番組では彼の思想を受け継いだ若者が、ITを活用して、ポップな政治活動をしている様子が放送されていました。

右派か左派かの違いはありますが、現状への不満の声を拾ったという点ではトランプ氏とサンダース氏はコインの表と裏の関係。大統領選挙に敗北したヒラリー・クリントン氏はこうした声を拾えなかった。体制派のエリートだからです。

トランプ氏の支持者は「トランプは俺たちが言葉にできなかったことを言ってくれた」と言います。

その声援を受けてアメリカ大統領に選ばれたトランプ氏。今、彼に与えられた課題は、アドラー心理学的に言えば「共同体感覚」をどれほど持てるかという点に移っています。

第3のポイント「共同体感覚」 〜分裂した共同体国家アメリカ〜

嫌われる勇気の中には「より大きな共同体の声を聞け」というフレーズが出ていますが、トランプ氏はアメリカの中で置き去りにされた人々という共同体の声を拾い、勝利しました。

しかしトランプ氏は政治家であり、アメリカ合衆国大統領という地位につく人。「他人の期待を満たさない」という嫌われる勇気をただ実践されては分断を拡大するだけです。

今、アメリカに恐怖や不安が広まっているのも、「本当にメキシコとの間に壁を作られたり、強制退去を命じられたらかなわない」と心底怯えるほど、トランプ氏の発言はリアルで、大きな分断を作ったからです。

この点について、アドラー心理学には次のような処方箋が用意されています。

アドラー心理学ではライフタスクを仕事のタスク、交友のタスク、愛のタスクの3つに分けています。ドナルド・トランプ氏が今までのところ語っているのは、仕事のタスク(雇用の創出)と支持者との交友のタスクの2つ。

しかし、今後、アメリカ大統領としてリーダーシップを発揮するなら、支持者以外のアメリカ国民や世界との交友のタスクと愛のタスクの2つのタスクを彼が果たせるのか?が大きな課題。ヨローッパ諸国やメキシコ、日本が今、最も懸念しているのもこの2点です。

歴史上、世界をリードした偉大なリーダーは例外なく思いやりと愛に満ちたリーダーシップを発揮しました。トランプ氏に求められているのも、大統領選挙選挙で拾った共同体以上の大きな共同体の声を聞くという仕事です。

勝利宣言スピーチではヒラリー・クリントン氏とアメリカ国民に思いやりのあるスピーチを届けたトランプ氏ですが、今後の一挙一動に世界中から注目が集まっており、「より大きな共同体の声を聞け」というアドラーのメッセージにトランプ氏がこれからも耳を傾けるかどうかが、今後の世界に大きな影響を与えます。

アドラーの見果てぬ夢

私がアドラー心理学に興味を持ったのは、自身の研究を「個人心理学」と名付けたアルフレッド・アドラーが、なぜ「共同体感覚」を大切にしたのか?という点。言葉だけを見れば、個人と共同体は往々にして利害の衝突を生むからです。

アルフレッド・アドラーは1870年2月7日、オーストリアに生まれたユダヤ人。亡くなったのは1937年5月28日です。ウィキペディアによれば、

第一次世界大戦では1916年から軍医として従軍し、戦争と大勢の負傷者・とりわけその中でも神経症の患者を大勢観察する中で、アドラーは共同体感覚こそが何にもまして重要であることを見出し、大戦終了後に共同体感覚を個人心理学の最新の基礎として語り始める一因となる。

世界大恐慌以降のオーストリアでは政治が不安定となり、1934年にオーストリアでドルフース首相のクーデターによるオーストロファシズム政権が樹立されると、翌1935年に一家でアメリカに移住した。

と書かれています。その後、オーストリアがナチスドイツに占領され、ユダヤ人が迫害されたのは周知の事実。アドラーが生きたのはそんな時代でした。

「経営学の神様」と言われたピーター・ドラッカーは「トップマネジメントには知覚、人間性、共感、人への敬意が必要である」と説いた人。彼も1909年11月19日、オーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系オーストリア人。その後、1939年、アメリカ合衆国に移住しています。

8年前、オバマ大統領は「1つのアメリカ」を掲げ大統領になりました。ヨーロッパは第2次世界大戦の悲しみと反省からEUを作りました。しかし今年起きたのはイギリスのEU離脱と内向きの政策を打ち出したトランプ氏のアメリカ大統領選出。

「戦火を逃れたアドラーとドラッガーが今も生きていたとしたら、移住したアメリカという地で行われた2016年の大統領選挙の結果を、どんな気持ちで見ただろう」そんな疑問が頭をよぎります。

アドラーが1918年、第一次大戦が終わる頃に書いた論文の中にこういう記述があります。

「資本主義の時代においては、他者を圧倒したいという渇望が大きくなるにつれて、人間の心の中にある強奪の楽しみが際限なくあおられてきました。われわれの精神装置がすべて権力追求の魔力にとらわれてしまっているということは、驚くべきことではありません」

「内輪もめは、それらが矛盾して、集団意識が持続的に圧力にさらされて共鳴したときに起こってくるからです。われわれの精神器官は、外からの圧力には内からの対抗圧力で応えますし、服従し忍耐することで報酬をもらって満足することはなく、かえって権力の手段を用いて自分の方が強いことを立証しようとするのです」

「思考や感情や意図の間の一致した土台前提とは、むしろ過去の慣習にもとづいた権利意識の強化、人間の共同生活に内在する論理そのもの、人間の共同体に対する疎外されない所属の要求こそがそれなのではないでしょうか」

「われわれは、強い共同体感覚を意識的に準備し促進すること、個人についても諸国民ついても暴力への渇望を完全に除去することを必要としています」

参照 共産主義と心理学 アルフレッド・アドラー 野田俊作訳

日本ではアドラー心理学は個人向けに語られていますが、アドラー心理学誕生の背景にあったのは彼が生きた戦争と混乱の時代。

アドラーが個人の尊重と共同体感覚の大切さに行き着いたのは、彼が生きた時代経験から「幸せな人生を過ごすための方法」を必死に考えたからだと思います。

「共存の世界へ向かうのか、分断の世界に向かうのか?」

という問いは、個人に置き換えれば、

「優秀な人材だけが評価される会社を作るのか、チームワークのある会社を作るのか?」

「自分だけが幸せになる道を選ぶのか、家族や友人と幸せになる道を選ぶのか?」

という問いと同じ。

平和を求めた賢人達が残した知恵を活かせるかどうか?

今、アメリカだけではなく、世界中の人々が問われているのかもしれません。

まとめ

3つのキーワード、劣等コンプレックス、勇気付け、共同体感覚を軸にトランプ現象を見てきましたがいかがだったでしょうか?

世の中に劣等感コンプレックスを持っていない人はいませんし、勇気付けが不要な人もいないでしょう。そして自分らしさと共同体の衝突で葛藤を味わったことのない人もいないはずです。心理学的に見れば、今、アメリカで起きていることは誰の心の中でも起きていることです。

劣等コンプレックスを持つと無力感でいっぱいになりますが、今回の大統領選挙で見たように、そこには大きなパワーが秘められています。そのパワーを勇気付けすることで引き出し大きな変化を起こしていく。ただし、それは共同体に貢献する方向に向いていることが大切です。

社会の中で生きていれば思い通りにならないこと、理不尽なこともたくさんあります。置かれた場所は人それぞれ違いますが、一人一人がその怒りや悲しみをパワーに変えて、よりよい家庭、よりよい学校、よりよい会社、よりよい社会を作ろうとすれば、きっとこの世界は良くなると思います。

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この記事を書いた人

才能 プロファイラー/才能開発コンサルタント。
「クライアントを経済的・精神的に最も豊かにする才能開発」がモットー。
著書「才能が9割 3つの質問であなたは目覚める」、「自分の秘密 才能を自分で見つける方法」(経済界)

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