倒産させた経営者から二代目経営者が学ぶこと ~前編~

こんにちは! 才能心理学協会・認定講師の澤田浩一です。

私の好きな番組のひとつにNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」があります。

ご存知のように、各界で活躍されている著名人たちの現場を密着取材しながら、「プロフェッショナルとは何か?」に答えていく番組です。

この番組に2度出演された経営者がいます。

元エルピーダメモリ社長、坂本幸雄氏。

一度目は現役の経営者として、そして2度目は彼が経営していた会社が倒産し、元経営者として。

この番組は成功した著名人が出る番組だと思っていたので、私には「なぜ倒産した会社の社長が?」と不思議に思いました。

そこで坂本氏のことを調べ始めたのですが、二代目経営者が経営していく上で考えなければならないポイントが二つ見えてきました。

ひとつは事業を存続させる上での財務の重要性、そしてもうひとつは、会社は決して創業者一族のものだけではなく、社会の中で果たすべき役割をもった「公器」であるということです。

 

今回は財務の重要性を見ていきましょう。

エルピーダメモリという会社は、もともとはNECと日立のそれぞれの不採算事業を切り離して出来た半導体、DRAM事業の合弁会社です。

かつて日本の半導体事業は世界トップクラスでした。ところが1990年代に入り、台湾や韓国の電機メーカーが参入し日本は一気にシェアを落とし、経営は悪化しました。

半導体メーカーが造るものは半導体チップと呼ばれるものですが、これはウエハーと呼ばれる薄い円柱状の半導体に電子回路を写真製版の要領で焼き付け、一つずつ切り出したものです。

本質的に印刷と同じような製造工程を取るので、ひとたび設備投資を行えば本や雑誌と同じように大量生産が可能になります。

ところが製造設備が急速に進化し、より微細な加工が次々に可能になると、半導体メーカーはその進歩に併せて巨大な設備投資が必要になってきました。

製造設備メーカーが新しい設備を販売すると、それに併せていち早く設備投資を行い、大量生産を行って市場にいち早く製品を送りだし市場シェアを一気に抑える、これが半導体業界の特質です。

設備更新の時期を迎えるたびに半導体の価格は下落するので、業界は構造的な不況に陥ります。1990年代まではそのサイクルが概ね4年でした。日本の電機メーカーはこのサイクルにうまく適応してシェアを獲得していたのですが、先にも述べたように台湾や韓国の電機メーカーの参入で、このサイクルはより短くなり、それに経営判断がついていけずシェアを落とし、経営が悪化しました。

坂本氏はアメリカの半導体メーカー、テキサス・インスツルメンツの日本法人副社長をされていた方で、その後神戸製鋼所の半導体事業部や赤字に苦しんでいた台湾の半導体メーカーの日本法人UMCJの立て直しを行っています。

エルピーダメモリ(以下、エルピーダ)は1999年12月にできた会社ですが、その後も2001年度には251億円、2002年度には238億円の営業損失を出します。

そこで坂本氏に社長への就任要請があり、2002年度期の途中で社長を引き受けるのですが、わずか1年で立て直し、2004年度期には151億円の営業利益を出します。

そしてシェアも回復させ2004年には上場、2007年度期には営業利益684億年、純利益529億年の最高益を計上します。

彼が行った手法は、自社の強みに目を向けてそこに集中投資を行い、投資効率を上げたこと。自社の強みとはエルピーダが持つ優秀な人材による製品開発と製造の技術力です。

半導体製品というのは大きく分けると、情報を記憶させておくためのメモリといわれる半導体、CPUなどに使われるマイコンと呼ばれる半導体、そして特定の計算や動作を行うために特化したASICと呼ばれる半導体の3つに分かれますが、坂本氏はエルピーダの技術力を活かすために、メモリの中のDRAMというものに集中し、他のフラッシュメモリーやCPUなどの半導体製品には手を出さない、と決めます。

そして「こんなDRAMがこういう用途に使えますよ」とソリューション提案を出来るように会社を方向づけ、付加価値を付け加えて行きました。

これだけでもエルピーダの事例からは経営者としては学ぶべきことが多いのですが、2008年のリーマン・ショックがエルピーダを襲います。

先にも述べましたように、半導体業界は集中した設備投資が必要な業界です。そのための資金が多量に必要です。
そのため坂本氏は、出資をいろいろなところから募ったり、借入金の圧縮を図る努力をされています。上場も資金を集めるという意味合いが濃いと思います。

2008年のリーマン・ショックは公的支援を受けるなどして乗り切りましたが、超円高になり再び業績が悪化、2012年2月に会社更生法の適用を受けます。

もともと資金力が弱く、借入体質であったこともあるでしょう。再生請負人と言われた坂本さんのような経営者でも超円高の波は乗り切れませんでした。

わたしたちのような中小企業も「資金」という面では弱い体質のところが多いのではないでしょうか?

二代目の最大の使命は、次世代へ引き継ぐということです。
「資金」が脆弱であることは、黒字であっても、景気の変動などで何かあればすぐに致命的になります。

中小企業の経営者は日ごろ、普段のさまざまな業務に追われて、この資金のことについてはつい目を忘れがちになるもの。
特に営業が得意な経営者にその傾向があるように思います。

ソリューション提案などで製品に付加価値を加えて差別化していくという戦略がいくら優秀であっても財務体質が弱ければ、元も子もありません。日頃から資金を厚くしておくこと、そのことの重要性をこのエルピーダの事例は再認識させてくれます。

ちなみに私が経営している会社の自己資本率(資産の中で資本が占める割合。高ければ高い程、優良企業と言われます)は業界の中では良い方ですが、無借金経営を標榜されている企業からすればまだまだだと思っています。 

(つづく)

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この記事を書いた人

精神科ソーシャルワーカーを経て、経理・総務・人事等の業務に従事後、2001年より計測器メーカー㈱サワダ製作所を経営、中小企業経営者のパートナーとして才能心理学、TOC、NLPを使った組織作り支援を展開。

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