「夢中になれることがない」「自分の才能がわからない」。才能開発の現場で、よく聞く悩みです。
下記の記事にある「数学のお兄さん」横山明日希さんのインタビューを読むと、才能の見つけ方・活かし方がわかります。

この記事の結論
才能は、テストの点数や評価ではなく、子どものころ夢中になっていたことから見つけることもできます。「数学のお兄さん」横山明日希さんの高校2年時の数学の偏差値は38でした。それでも数学の授業では、ときどき発言していました。才能開花の1つのパターンは「夢中・没頭→停滞・挫折→再起動→結実」の4つの段階を経ること。多くの場合、本人がその才能に気づくのは、人に認められたときです。
横山さんの歩みは、次の4つの段階に分けられます。
| 段階 | 横山さんの場合 |
|---|---|
| ① 夢中・没頭 | ブロックの組み立て方を工夫し、通園バスでは頭の中で数を「億」まで数え続けた |
| ② 停滞・挫折 | 中学1年の秋から高校2年の終わりまで勉強を手放した。数学の偏差値は38 |
| ③ 再起動 | 担任の「お前は数学ができるぞ」の一言と、図書室の100冊以上の数学書。偏差値は78に |
| ④ 結実 | 数学の面白さを人と分かち合いたいのだと気づき、「数学のお兄さん」に |
① 夢中・没頭:子どものころ夢中になったことの中に、才能の手がかりがある
子どものころ、夢中になったことが才能の手がかりになるかどうかは、次の2つの点で見分けられます。1つは時間。すぐ飽きたか、ずっと夢中になっていたか? もう1つは繰り返し。考えては試すことを、何度もしていたかどうかです。
横山さんの子どものころの遊びは、この両方に当てはまります。ブロックでロボットを作っていたころのことを、本人はこう振り返っています。
「どの順番で組み立てるといちばん効率よく作れるか」とか、「どんなパーツを足せば思い通りの形になるか」を無意識に考えていました。一つのものを作る中でも、記憶を頼りにしながら最適な手順を探したり、脳内でアレンジやカスタマイズをしたりするのが好きで。
ブロックでロボットを作る子どもは、たくさんいます。違いは、何に夢中になっていたかです。横山さんが夢中になっていたのは、手順を試して、より良い組み立て方を探すことでした。本人は、組み立て方を工夫したことを「数学の原点」と振り返っています。
幼稚園の通園バスでは、頭の中で数を数え続けていました。行きにどこまで数えたかを覚えておき、帰りに続きから数える。9999万9999の次を親に尋ね、「億」という単位を知りました。頭の中で数字を動かす感覚が、とにかく楽しかったそうです。
才能心理学では、才能を「心を突き動かす感情を行動に移し続けた結果、生み出される能力」と定義しています。楽しい、面白いという感情が行動になり、その行動を続けるうちに能力になります。報酬や評価がなくても、面白さに惹かれて取り組む意欲を、心理学では内発的動機づけと呼びます(Ryan & Deci, 2000)。夢中になるのは、内発的動機づけの表れです。
小学4年生のころ、横山さんは学校の算数が簡単すぎて、物足りなさを感じていました。その年の2月に塾に入り、平日は自分で教材を進めるようになります。6年生のときには、授業中にすぐ答えを言ってしまい、先生から注意されました。横山さんは、学校は学校、塾は塾と割り切り、力を使える場所を学校の外に見つけました。塾の先生に勧められた算数オリンピックでは、手も足も出ない問題に初めて出会いました。
② 停滞・挫折:評価が低い時も、才能が消えたわけではない
成果が出ない時や評価が低い時も、才能が消えたわけではありません。才能を使う場面がなかっただけ、ということがあります。実は、横山さんも、高校2年で数学の偏差値は38まで落ちていました。
中学1年の秋から高校2年の終わりまで、横山さんは勉強を一切しませんでした。親の離婚などが重なって人を信じられなくなり、精神的にかなりつらかったと語っています。夜は眠れず、午前中の授業はずっと寝ていたそうです。
成績だけを見れば、当時の横山さんに数学の才能があると思う人はいなかったでしょう。それでも、数学の時間にはときどき起き上がって発言していました。勉強から離れていても、数学への関心は残っていたのです。
誰にも評価されず、何も手につかないという相談を受けたとき、私は才能プロファイリング®の3つの質問をします。その1つが、「二十歳までのポジティブな経験、ネガティブな経験は?」です。今の評価ではなく、これまでの経験から才能を探します。
③ 再起動:多くの人は、人に認められて初めて自分の才能に気づく
ほとんどの人は、他者から認められ、評価されて初めて自分の才能に気づくものです。当たり前にできることは、自分では才能だと思えないからです。
横山さんを変えたのは、高校2年の担任だった数学の先生の一言でした。数学の時間に発言した横山さんに、先生は「お前は数学ができるぞ」と声をかけました。横山さんは、その一言が大きな転機になったと振り返っています。
同じころ、学校の図書室で100冊以上の数学書に出会いました。数学の世界はこんなに広いのかと衝撃を受け、夢中で読みあさったそうです。
人に認められることと、新しい世界に出会うこと。止まっていた才能が再び動き出したとき、横山さんにはその両方がそろっていました。
高校2年から3年に上がる春休み、横山さんは本気で受験勉強を始めます。高校3年の夏休みは、1日10時間の勉強のうち8時間を数学に充て、数学だけで320時間を費やしました。模試の数学の偏差値は38から78に上がり、2学期の定期テストでは数学で学年1位になっています。
心理学には、横山さんの経験を説明する考え方が2つあります。
- 言葉による励まし:自分はやり遂げられると信じる感覚を、心理学では自己効力感と呼びます。心理学者のバンデューラは、自己効力感を高める要因の1つに、周りの人から言葉で励まされることを挙げました。ただし、最も強い要因は、自分で成し遂げた経験です(Bandura, 1977)。先生の一言はきっかけです。自信を確かなものにしたのは、320時間の勉強と、その結果の学年1位という、自分で成し遂げた経験でした。
- 興味は人と環境に支えられて育つ:教育心理学者のハイディとレニンジャーは、興味が育つ過程を段階に分けて整理しました。興味は最初、周りの環境や人の働きかけで引き出され、支えられるうちに、自分から追い求めるものになります(Hidi & Renninger, 2006)。図書室の100冊は、横山さんの興味を受験科目の外へ広げました。
高校3年の数学の授業では、生徒が作った解答を出し合い、この解き方でよいか、どこが足りないかを話し合いました。横山さんは、自分の考えを発信することで、大きな自信と生きている実感を得たと語っています。才能は、人と関わることで動き出します。
あなたの才能を、最初に言葉にしてくれた人は誰でしたか。その言葉を思い出せるなら、そこに手がかりがあります。
自分の才能を見つける手順は、才能の見つけ方完全ガイドで詳しく解説しています。
④ 結実:才能を誰の、どんな問題に活かすかがわかると、仕事になる
同じ能力でも、どのような問題、誰の問題や悩みにモチベーションが湧くのかは人によって違います。例えば、同じように問題解決能力に秀でていても、職場の人間関係を改善したい人もいれば、工場の不良品を減らしたい人もいます。
才能を単に能力として捉えるのではなくて、それを誰に、何に使うことにモチベーションが湧くのかを知ることも重要です。
横山さんは早稲田大学の数理科学科に進み、大学から大学院まで統計学を専攻しました。しかし学び続けるうちに、自分は研究者になりたいわけではないと気づきます。好きだったのは、数学の問題を解くことより、数学の面白さを多くの人と分かち合うことでした。
大学2年の秋には、学外で出会った起業家に「君は何をしたい人なの?」と問われました。数学と楽しい空間づくりを掛け合わせて活動したいと答えると、それは歌のお兄さんや体操のお兄さんの数学版だね、と背中を押されたそうです。横山さんは自ら「数学のお兄さん」と名乗り始めました。
数学が得意というだけでは、仕事にはなりません。誰の、どんな問題に活かすのか。それを言語化できたとき、横山さんの才能は「数学のお兄さん」という仕事になりました。大学院を修了した後は、教育系企業やIT企業で働きながら副業で活動を続け、声がかかる機会が増えたことから、株式会社math channelを設立しました。
米国の大学生を対象にした心理学の実験があります(O’Keefe, Dweck & Walton, 2018)。夢中になれることは「見つけるもの」だと考えている人は、「育てるもの」だと考えている人より、難しい課題にぶつかると興味を失いやすいことがわかりました。夢中になれることは、見つけた時点で完成しているわけではありません。続けるうちに育ち、誰の、どんな問題に活かすかがわかったとき、仕事になるのです。
夢中になれることがないと思っている人に書き出してほしい3つのこと
4つの段階を、自分に当てはめてみましょう。次の3つを紙に書き出してください。
- 子どものころ、長く続けていたことと、繰り返していたこと:具体的な遊びと、その遊びで何をしていたか(手順を工夫する、数を数える、人を笑わせる、など)
- 今、止まっている理由:才能がわからないからなのか、才能を使う場面がないからなのか、など
- これまでに人から認められた言葉:自分では当たり前だと思っていたのに、ほめられたこと
夢中になれることがないと感じている方の多くは、4つの段階のうち②(停滞・挫折)にいるのでしょう。才能心理学では、誰にでも才能があると考えます。
3つ目が書けない方もいると思います。認めてくれる人が周りにいないなら、そういう人がいる場所に出かけてください。イベントやセミナーに参加する。新聞やメディアで気になる人がいれば、その人が主催するイベントに行ってみる。それではハードルが高いと感じるなら、本でもかまいません。気になる本を読んで、「この人だ」と思い、その気になったら会いに行く。
才能は人間関係の幅を広げることで開花していくからです。
よくある質問
- 夢中になれることがない大人は、どうすればいいですか?
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子どものころ夢中になっていたことを書き出してください。夢中にまでなっていなくても、楽しかったことでも構いません。その上で、それが長く続いたか、考えては試すことを繰り返していたかを確かめてください。
- 子どものころ夢中だったことを思い出せません。
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「二十歳までのポジティブな経験、ネガティブな経験は?」から思い出してみてください。親や兄弟に聞いてみるのも手です。
- 勉強や仕事の成績が悪いのは、才能がないからですか?
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そうとは限りません。理由は大きく3つあります。1つ目は、基本的な勉強の仕方や仕事のやり方を身につけていないために、成果が出ない場合。2つ目は、自分の才能をまだ見つけていない場合。3つ目は、才能の活かし方に気づいていない場合です。才能がないと感じるときの考え方は、才能がないと諦めている人へでまとめています。
- 夢中になれることを見つければ、ずっと続けられますか?
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続けられるとは限りません。取り組むうちに、難しくて投げ出したくなる時期が来るからです。夢中になれることは、見つけたら終わりではなく、続けながら育てるものです。周りの人に支えてもらうことや、誰の、どんな問題に活かすかがわかることも、続ける力になります。
まとめ
- 才能は、子どものころ夢中になったことから見つけることもできる。見分ける手がかりは、時間と繰り返し
- 評価が低い時も、才能が消えたわけではない。使う場面がないだけのことがある
- 多くの人は、人に認められ、新しい世界に出会って、初めて自分の才能に気づく
- 才能は、誰の、どんな問題に活かすかがわかったとき、仕事になる
子どものころ、時間を忘れて繰り返していたことは何でしたか。まず1つ、紙に書き出してみてください。そこに、あなたの才能の芽があります。
夢中になれることがないのではなく、才能がまだわからないだけかもしれません。
子どものころ夢中になったことや、楽しかったことの中に、才能の手がかりがあります。ただ、当たり前にできることは、自分ひとりで振り返っても才能だとは思えないものです。
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参考
- 「偏差値38から78へ! 早稲田大学大学院卒、『数学のお兄さん』横山明日希先生が語る、絶望のどん底から僕を救ってくれた数学の世界」HugKum https://hugkum.sho.jp/811784
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215. https://doi.org/10.1037/0033-295X.84.2.191
- Hidi, S., & Renninger, K. A. (2006). The four-phase model of interest development. Educational Psychologist, 41(2), 111–127. https://doi.org/10.1207/s15326985ep4102_4
- O’Keefe, P. A., Dweck, C. S., & Walton, G. M. (2018). Implicit theories of interest: Finding your passion or developing it? Psychological Science, 29(10), 1653–1664. https://doi.org/10.1177/0956797618780643
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78. https://doi.org/10.1037/0003-066X.55.1.68

