承認欲求とは、自分の成果や能力を、他人に認めてほしい、自分でも認めたいという欲求です。
この記事の結論
承認欲求が強いのは、あなたに直すべき欠点があるからではありません。何を認めてほしいのかを確かめると、あなたが大切にしているものや、本当に望んでいることがわかります。承認欲求は、消そうとするより、自分を知る手がかりにするほうが楽になります。
「成果は出しているのに、上司が見てくれない」
「評価なんか気にせず、淡々と仕事をしたい」
才能開発の現場で、よく受ける相談です。話を聞いていくと、多くの人が「こんなに認められたいと思う自分が嫌です。承認欲求を消したい」と言います。
そう言われたとき、まず「それは本当ですか?」と聞きます。上司が見てくれないことに不満があるなら、本当は、しっかり見てほしい、評価してほしいと思っているはずだからです。その気持ちは、消そうとしても消えません。
この記事では、承認欲求が強くなる原因と、消さずに、自分を知る手がかりにする方法を解説します。
承認欲求とは?マズローが分けた2つの種類
心理学者のアブラハム・マズローは、1943年の論文で、承認の欲求を次の2つに分けました。
- 自分で自分を評価したい欲求:自分の力や達成に自信を持ち、人に頼らずにいたい
- 他人から認められたい欲求:よい評判を得たい、尊敬されたい、注目されたい、評価されたい
マズローは、揺らがない自尊心を、実際の能力や達成、そして他人からの尊敬に裏づけられたものとしています(マズロー, 1943)。つまり、承認欲求には、実際の成果や能力という「認めてほしいもの」があるということです。
普段「承認欲求が強い」と言うときは、多くの場合、2つ目の「他人から認められたい欲求」のことです。承認欲求が、欲求の5段階の中でどこに位置づけられるかは、マズローの欲求5段階説の記事で解説しています。
あなたが認めてほしいのは、どんなことでしょうか。
その悩みは承認欲求?それとも不安?
評価されるのが怖い、嫌われたくないから頼まれごとを断れない。この2つの悩みは、承認欲求よりも、自信のなさや不安に近いものです。承認欲求には、認めてほしいもの(成果や能力)がはっきりありますが、評価が怖い・断れないという悩みには、それがないからです。
承認欲求の解説では、評価を気にすることや頼まれごとを断れないことが、「承認欲求が強い人の特徴」としてよく挙げられます。けれど、この記事では、承認欲求と不安を分けて考えます。
| 承認欲求 | 不安・自信のなさ | |
|---|---|---|
| よくある悩み | 成果を出しているのに、上司が見てくれない | 評価面談の前は眠れない/嫌われたくなくて断れない |
| 認めてほしいもの | ある(成果・能力・頑張り) | はっきりしない |
| 気持ちの中心 | 認められたい | 否定されたくない |
心理学者の菅原健介さんは、「ほめられたい気持ち」と「拒否されたくない気持ち」を、別のものとして研究しています(菅原, 1986)。後者は、この記事でいう不安にあたります。
見分けるときは、「私は、何を認めてほしいのか」と自分に聞いてみてください。答えがすぐに出てくるなら、その悩みは承認欲求です。出てこないなら、悩みの中心は、否定されることへの不安のほうかもしれません。
あなたの悩みは、どちらに近いでしょうか。
SNSが作る「承認欲求」
SNSで他人の投稿を見て湧いた「認められたい」という気持ちは、あなたが本当に認めてほしいこととは限りません。もともと自分の中にあった欲求のこともあれば、他人に刺激されて湧いただけのこともあるからです。大切なのは、この2つを見分けることです。
SNSでは、他人の成功や充実した生活が次々に目に入ります。いいねがたくさん付いた投稿を見て、「それが正解なんだ」と思い込むこともあります。友達がブランド物の時計を持っているのを見て、もともと欲しくなかったのに、自分も持たなければいけないように感じるのも、同じ働きです。
他人を見て「自分もこうなりたい」と思うことはあります。その中には、自分の中に隠れていた欲求が、他人をきっかけに湧き出てきたものもあります。一方で、他人に刺激されて湧いてきただけで、自分の中には本当はない欲求もあります。私は、この後者を「作られた承認欲求」だと考えています。
後者に近いのが、フランス出身の思想家ルネ・ジラールの「模倣の欲望」という考え方です。ジラールは、欲望は物そのものから生まれるのではなく、他人の欲望を写すことで生まれる、と論じました。ルーク・バージスの『欲望の見つけ方』(早川書房)は、ジラールの考え方を、お金や仕事、恋愛の場面に当てはめて紹介しています。
心理学にも、関連する考え方があります。
- 社会的証明:確信が持てないとき、他人の行動を見て自分の行動を決めることです。心理学者のロバート・チャルディーニがこう名づけました。いいねの数が多い投稿を正解だと思い込むのは、社会的証明の一例です。
- 社会的比較:自分の意見や能力を、他人と比べて評価することです。心理学者のレオン・フェスティンガーが1954年に提唱しました。同期の昇進やSNSの投稿を見て落ち込むのは、社会的比較の一つです。
ステイプルトンらの調査(2017年・18〜29歳)では、他人に認められるかどうかで自分の価値が決まると感じている人ほど、インスタグラムをよく使うと他人と比べやすい、という関連がわかりました。
SNSを見て湧く気持ちが、ただ羨ましいだけのこともあります。「俺だってできるのに、なんであいつが昇進したんだ」「いいなぁ、僕もそうなりたいけど、でも無理かも」。どちらも、羨ましいけれど行動できない状態で、承認欲求というより、羨ましさに近いものです。
いいねを見て「認められたい」と思ったことは、本当にあなたが認めてほしいことでしょうか。
承認欲求が強くなる原因
承認欲求が強くなる原因として、よく挙げられるのは次のようなものです。
- 子どものころから、認められた経験が少なかった
- 家庭の環境が厳しく、条件付きでしか認めてもらえなかった
- 自分で自分を評価できず、他人の評価に頼っている
これらに加えて、会社の昇進の仕組みも、承認欲求を強くする原因になります。
多くの会社では、トップセールスマンの次はマネージャーになる、というように、管理職になる段階を経てキャリアアップする仕組みになっています。そのため、一人のプレイヤーとして活躍したほうが才能を発揮できる人でも、マネジメントの才能を手に入れたり、その道に進んだりしなければ、これ以上は成長できないように感じてしまいます。
「もっと上に行きたい」と思ったとき、会社の中で目に入るのは管理職のポジションです。管理職として認められたいと思うのは、本人の性格のせいだけではありません。会社の仕組みが作った思い込みも影響しています。
あなたが今目指しているポジションは、本当に望んでいるものでしょうか。
「認められたい」は、消そうとしても消えない
承認欲求を消そうとしても、気持ちは消えません。まずは「認められたい」という自分の欲求を、自分で認めることから話が始まります。
たとえば、ステーキを食べたいと思ったとします。でも「ステーキなんか食べられないから、吉野家の牛丼にしておこう」と思ったら、やっぱり「ステーキを食べたいよな」という気持ちは消えずに残ります。
一方で、「ステーキを食べたいけれど、今はお金がないから仕方がない。牛丼で我慢しよう。でも、いついつまでにこれくらいお金が貯まったら、ステーキを食べよう」と決めたら、それは目標になります。そうすれば、そのためにどうやってお金を貯めるかを考えられます。
冒頭の上司の相談も同じです。今は「成果を出しているのに認めてくれない」。それなら、「どうやったら認めてくれるんだろう」と考えることが大事です。
「評価なんか気にしない」と決めても、見てほしいという気持ちは残り続けます。
あなたは、自分の「認められたい」という気持ちを、自分で認めていますか。
才能心理学の見方:まず「何を認めてほしいのか」を確かめる
「承認欲求が強い」と相談に来た人に対して、私はまず、何を認めてほしいのかを見ます。
才能心理学では、才能開花のきっかけに2種類あると考えます。感動や憧れ、好奇心といったポジティブな経験から出発する場合と、コンプレックスや欠乏感といったネガティブな経験から出発する場合です。多くの人は、どちらも経験しています。
欠乏から出発する人にとって、承認欲求は「これが認められれば、自分の欠乏感が満たされる」という思い込みと結びついています。認めてほしいものが認められて、欠乏感が満たされる場合もあれば、満たされない場合もあります。そして、承認欲求で悩んでいる人の多くは、認められても欠乏感は満たされないものを、認めてほしいと思っています。
具体的な例でお話しします。以前、あるトップセールスマンが相談に来ました。営業成績は社内でナンバーワンでしたが、マネージャーの昇格試験に落ちたのです。
「なんでトップの自分が落ちたんだ」。評価した上司のことも信じられず、自分に何が足りないのかもわからない、という相談でした。
けれど、営業でナンバーワンになる能力と、マネージャーとして部下を育てたり、チームで成果を出させたりする能力は、まったく違います。彼には、そこが見えていませんでした。
彼の場合、営業の力は、すでに社内で認められていました。けれど、もっと上に行きたいと思っていて、それを会社の仕組みの中で考えると、マネージャーというポジションになりました。ただ、マネージャーとしての能力は、まだ育ててきていませんでした。認められなかったのは、そこだったのです。
彼の欠乏感は、「もっと上に行きたい」という思いでした。仮に昇格していたとしても、この思いは満たされなかった可能性があります。認めてほしかったものが、自分が育ててきた力とずれていたからです。
その後、彼はプレイヤーとして仕事を続けることを選びました。
似た状況の別のクライアントもいました。彼女も一度、昇進を逃しています。けれど、自分に欠けているものを見つけ、マネージャーとして必要な能力を磨くことにしました。
具体的には、自分の営業スキルやノウハウを部下や後輩にシェアして、みんなを育てました。トップセールスマンにはなれなくても、平均以上の営業成績を出せる部下や後輩が増えました。それを上司が見ていて、その後、マネージャーに昇進しました。
同じ「認められなかった」という経験から、2人は別の選択をしました。どちらも、自分が何を認めてほしいのかと、そのために何が必要なのかがわかったから選べたのです。
認めてもらうために必要な力を、あなたはもう育てていますか。
同じ職場でも、やる気のスイッチは人によって違います。
マズローの段階は、欲求が現れる順序を説明してくれます。ただ、目の前の相手がどの段階で強く反応するかまでは分かりません。認められると伸びる人もいれば、任されたほうが動く人もいます。これは性格の差ではなく、個性や才能、モチベーションの違いです。
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認められないのは、価値がないからではない
認められないのは、あなたに価値がないからではありません。相手のニーズに合っていないからです。
どれだけ素晴らしい商品を開発しても、お客さんが欲しいと思っていなければ、買ってはもらえません。でも、買ってもらえないことは、その商品に価値がないという意味ではありません。その商品を求めている別のお客さんからすれば、「ぜひ欲しい」となるからです。
会社員にとって、社内のお客さんは上司です。上司に評価されたいなら、上司が何を求めているのか、何を評価したいと思っていて、何を評価するつもりがないのかを、まず知る必要があります。
資格を取って仕事の質を上げたのに、評価も役割も変わらない、という相談もあります。この場合も、上司が求めていたのは仕事の質を上げることだったのか、資格を取ることだったのかを確かめてください。ほかのメンバーもその資格を持っているなら、その資格を取るのは特別なことではありません。資格を1つ取っただけでは、評価にはつながりにくいのです。
一生懸命やっているのに上司が評価してくれなかったら、がっかりしますし、しんどいものです。「期待しなければ楽になる」という気持ちになるのも、よくわかります。私にも、そういう時期がありました。
けれど、そういうときに見落としているのが、上司のニーズです。「評価してほしい」「認めてほしい」という自分のニーズが先に立って、上司のニーズが目に入らなくなっています。
評価が高い人や昇進していく人は、上司のニーズや会社のニーズを捉えています。これができれば、能力がそれほど高くなくても評価され、出世できます。もちろん、ポジションや役割、プロジェクトの担当者がすでに決まっていて、枠がないということもあります。そうした社内事情も調べておく必要があります。
自分の企画が通らず、似た案を出した同僚の企画が採用された、という場合も同じです。同僚の企画のほうが、上司や担当者のニーズに合っていたということです。
「自分のほうが長く考えた」は、評価には関係がありません。「この商品の開発に10年かかりました」というのは、お客さんには関係のないことです。お客さんは、10年かけて作っても1年で作っても、望みをかなえてくれるなら「それが欲しい」となります。
相手のニーズという視点に立つと、かけた努力の量や時間は、一番大事なものではありません。大事なのは、相手のニーズに応えることです。時間は、そこにかけるべきです。だからこそ、ヒアリングやリサーチを通して、相手のニーズがどこにあるのかを探り、しっかり押さえることが大切です。
あなたの上司は、何を求めているでしょうか。
苦しさが大きいときは
承認欲求のことで眠れない日が続いたり、仕事が手につかなくなったりしているときは、一人で抱えずに、医療機関やカウンセラーなどの専門家に相談してください。
承認欲求が強いことが病気かどうかを、この記事で判断することはできません。苦しさが大きいときは、まず心と体を休めることを優先してください。
あなたが今感じている苦しさは、一人で抱えられる大きさでしょうか。
よくある質問
承認欲求が強いのは病気ですか?
承認欲求が強いこと自体は、病気ではありません。マズローも、承認の欲求を誰もが持つ欲求の1つとしています。ただし、日常生活に支障が出るほど苦しいときは、医療機関や専門家に相談してください。病気かどうかは、この記事では判断できません。
承認欲求はなくせますか?
なくそうとしても、なくなりません。消そうとするより、まず「認められたい」という気持ちを自分で認め、何を認めてほしいのかを確かめてください。それがわかると、どうすれば認められるかを考えられるようになります。
職場で認められないと、やる気が出ません。どうすればいいですか?
上司が何を求めているのかを、まず確かめてください。認められないのは、多くの場合、あなたに価値がないからではなく、上司のニーズに合っていないからです。上司が何を評価したいのかがわかれば、何に力を注げばいいかがわかります。
SNSを見ると、自分も認められたいと思ってしまいます。
その気持ちが、本当にあなたの望みなのかを確かめてください。他人の活躍やいいねの数を見て湧いた気持ちは、他人から写した欲求の場合もあります。「それが認められたら、本当に満たされるか」と自分に聞いてみると、見分けやすくなります。
まとめ
承認欲求が強いことは、直すべき欠点ではありません。消そうとしても気持ちは残るので、まずは認められたいという自分の欲求を認めてください。
そのうえで、次の3つを確かめてください。
- あなたは、何を認めてほしいのか
- それは、本当にあなたの望みか。SNSや会社の仕組みが作った欲求ではないか
- 認めてほしい相手は、何を求めているのか
この3つがわかると、承認欲求は、あなたが大切にしているものや、これから伸ばす力を知る手がかりになります。
何を認めてほしいのかには、あなたが大切にしているものや、これから伸ばす力がかかわっています。それは、才能を知るきっかけにもなります。それを才能につなげる考え方を、無料の動画セミナーで紹介しています。
【才能診断】やる気が出ないのは、あなたの怠慢ではないかもしれません。
仕事に身が入らないとき、原因が「自分の才能と、いまの役割が噛み合っていない」ことにある場合があります。合わない場所では、誰でも力が出ません。
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