職場で「感じのいい人」「人望がある人」と言われる人は、何が違うのでしょうか。笑顔やあいさつ、気配り。どれも大切ですが、それだけでは説明しきれない違いがあります。
下記の記事にある1.2万人の行動観察と心理学の研究を合わせて読むと、その違いの正体が見えてきます。

職場で感じのいい人は、実は「準備している人」です。この記事では、その理由と、誰でも始められる5ステップを紹介します。
感じのいい人は「エレベーターのボタン係」をしていた
エレベーターの扉が開く。先に乗った人がボタンの前に立ち、「何階ですか?」と声をかける。降りるときには「お疲れさまでした」と、他の人を先に通す。
プレジデントオンラインに載った越川慎司さん(クロスリバー代表)の記事によると、「ボタン係」をしている人は、評価の高い層ほど多いそうです。越川さんの会社が28社・1万2897人の行動を観察したところ、評価上位20%の人の89%がボタン係をしていて、一般社員では31%でした。ボタン係をする人が社内で「ありがとう」と言われる回数は、一般社員の3.2倍だったといいます。
ここまでなら「気配りは大事」という話です。しかし、記事を最後まで読むと、彼らが評価を高めるために取っている戦略的行動が見えてきます。
感じのいい人は、聞く前に準備している
記事によると、評価の高い人はエレベーターの短い時間に、「○○部の新プロジェクト、順調ですか?」「来月のシステム更新の準備、いかがですか?」と、相手の仕事について具体的に尋ねていました。
そこから他部署の進み具合や課題、人の異動をつかみ、人手が足りない部署に手の空いている人を紹介したり、トラブルを抱える部署に過去の解決事例を伝えたりしていました。詳しく調べた評価の高い人657名のうち、会話で得た情報を提案や問題解決に使っていた人は57.2%。一般社員785名では8.2%だったそうです。
しかし、「○○部の新プロジェクト、順調ですか?」と聞くには、エレベーターに乗る前から、その新プロジェクトがあることを知っていなければなりません。
記事はこの点に触れていません。けれど順番を考えれば、声をかける前に「把握する」段階があるはずです。社内報か、全社会議か、社内のチャットか、自分の仕事での接点か。どこから知ったにせよ、何の情報もなければ会話は「お疲れさまです」で終わります。準備をしているから、相手の仕事に一歩踏み込める。
つまり、職場で「感じのいい人」は、「準備している人」なのです。相手の仕事を前もって知っていれば、「自分の仕事を気にかけてくれている」と相手に伝わります。それが感じの良さになります。だから、「状況把握力がある」と記事に書かれているのではないでしょうか。
職場で好かれる人は質問する:心理学の研究から
質問も「感じの良さ」につながります。記事では、「○○部の新プロジェクト、順調ですか?」という投げかけが紹介されていました。
「順調ですか?」と聞かれて、「実は人が足りなくて」と答えたとき、「何人くらい足りないんですか?」と重ねてもらえたら、この人は本当に気にかけてくれていると感じるでしょう。感じの良さの正体は、ここにもあります。
ハーバード大学などの研究チームによる会話の実験(Huangら、2017年)では、質問を多くする人、特に相手の答えを受けてもう一つ重ねて聞く人ほど、相手から好かれました。相手が「ちゃんと聞いてもらえた」と感じるからです(効果は大きくはなく、再分析による批判もあります)。
親切が先、質問はあと:返報性という順番
もう一つ見逃せないのが、順番です。
関係ができていない相手から、いきなり「新プロジェクト、順調ですか?」と聞かれたら、少し身構える人もいるでしょう。探りを入れられているように感じるかもしれません。
ところがこの記事の人たちは、「何階ですか?」と聞き、ボタンを押しています。小さな親切を受け取った相手は、お返しをしたくなる。心理学でいう「返報性」です。親切が先にあるから、そのあとの質問が詮索ではなく気遣いとして届くのです。
雑談の相手を変えると情報が増える:弱いつながり
記事には、もう一つ面白い工夫が出てきます。評価の高い人たちは、朝のコーヒーの時間を曜日ごとにずらしていたそうです。月・水・金は8時55分、火・木は9時05分。そうすることで、自販機の前で会う顔ぶれが入れ替わる。
実際、朝のコーヒー習慣を戦略的に使っている人たちは他部署との連携が多く、部署をまたぐプロジェクトに参加する人の割合が一般社員の1.7倍でした。さらに、曜日ごとに時間をずらしていた人たちは、四半期あたりの新しい協業相手が平均で1.6倍に増えていたといいます。
これは社会学者グラノヴェッターの「弱いつながり」の効果でしょう。新しい情報や機会は、毎日話す親しい人よりも、たまに話す人から来やすい。親しい人とは知っていることが重なりがちですが、たまに話す他部署の人は、自分の知らない情報を持っているからです。
「弱いつながり」は、大規模な実験でも確かめられています。LinkedInの利用者2,000万人超を対象に、表示する「知り合いかも」の候補を無作為に変えて弱いつながりの割合を操作した研究(Rajkumarら、Science誌、2022年)があります。
転職にいちばん効いたのは「ほどほどに弱い」つながりでした。親しすぎず、まったくの他人でもない。エレベーターやコーヒーの前で会う他部署の人は、ちょうどこの距離にいます。
キャリア理論には「計画的偶発性理論」という考え方もあります。スタンフォード大学のクランボルツらが唱えたもので、キャリアは偶然の出来事に大きく左右されるが、好奇心や柔軟性をもって動く人ほど、偶然を機会に変えられる、というものです。偶然は待つものではなく、起きやすい状況をつくれる。コーヒーの時間をずらす人は、それを毎朝やっているのかもしれません。
人望がある人は、部署と部署のあいだに立つ
社会学者バートは、グループ同士がつながっていない「すき間」を「構造的空隙(くうげき)」と呼びました。両者の間にいる人には、両方から情報が集まり、つなぎ役として評価されやすいとされます。大手電機メーカーの管理職673人を調べたバートの研究(2004年)では、グループ同士をつなぐ位置にいる人ほど、出したアイデアが高く評価され、報酬や昇進にも恵まれていました(ただし相関の研究)。
記事の「評価の高い人」は、まさにこの位置を、偶然ではなく自分で取りにいっています。ある部署の人手不足と、別の部署の手の空いている人。それぞれの部署の中では見えない組み合わせが、間に立つ人には見える。記事は、社長表彰に値するプロジェクトほど他部門のメンバーが多くなっているという例を挙げ、一つの部署だけでは成果を出しにくい時代になったと書いています。間に立つ人の価値は、これから上がっていくのかもしれません。
感じのいい人になる5ステップ
ここまでの話を、実践しやすい形にまとめると次の5ステップになります。
ステップ1:準備する
他の部署の動きを、一つだけ知っておきます。社内報、全社会議、社内チャット、自分の仕事で接した情報。新しいプロジェクト、システムの更新、人の異動など、何か一つで構いません。
ステップ2:先に与える
「何階ですか?」と聞き、ボタンを押す。降りるときは相手を先に通す。これが、次に会ったときの話しやすさにつながります。
ステップ3:具体的に聞く
「○○部の新プロジェクト、順調ですか?」「来月のシステム更新の準備、いかがですか?」と、相手の仕事について聞きます。答えが返ってきたら、もう一つ重ねて聞いてみる。それが「聞いてもらえた」という感じの良さにつながります。聞き方のコツはビジネスを円滑にする「聞き上手」でも紹介しています。
ステップ4:つなぐ・提案する
自分や自分の部署が役に立てることがあれば申し出ます。人手が足りない部署に手の空いている人を紹介する、トラブルを抱える部署には、過去の解決事例を伝える。すぐに役立てなくても、覚えておくだけで次につながります。
ステップ5:接点を増やす
コーヒーや休憩時間を、曜日によって少しずらしてみる。会う顔ぶれが変わり、話す人が増えます。そこで聞いた話が、次の「準備」の材料になり、ステップ1への循環が始まります。
一度で全部やる必要はありません。やりやすいステップから始めてください。評価される人に共通する習慣は、仕事ができる人の習慣や考え方とは?でもまとめています。
自分に合うステップから始める:才能の視点
記事に出てくる行動は、コーヒーの時間を曜日で調整するなど、意図して行われている戦略です。だからこそ、誰でも取り入れられます。ただ、5ステップの中で、自然にできることと、努力が必要なことは、人によって違うでしょう。
人の仕事に興味が湧く人は「ステップ3:具体的に聞く」から。戦略的思考が強みの人は、コーヒーの時間をずらすような「ステップ5:接点を増やす」から。自然と手が動く人は「ステップ2:先に与える」から。得意なステップから入り、苦手なステップは意識して補う。自分の強みを活かせば、型をそのまままねるより続けやすいはずです。
自然にできることと、成果につながる「強み」の関係は、才能と強みの違いとは?で詳しく解説しています。
数字を見るときの注意
この記事の数字は、越川さんの会社の調査によるもので、詳しい調査方法は分かりません。また「評価の高い人ほどボタン係をしている」というのは、ボタン係をしたから評価が上がった、という意味とは限りません。仕事に余裕があり評価も高い人だから、周りに気を配れる、という逆の流れもありえます。3カ月の追跡結果も、本人の回答です。因果関係か相関関係かはしっかり把握しておいた方が良いでしょう。
よくある質問
- 職場で感じのいい人になるには、何から始めればいいですか?
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他部署の動きを一つ知っておくこと(ステップ1:準備する)から始めるのがおすすめです。話題が一つあるだけで、あいさつの次の一言が変わります。
- 人望がある人には、どんな特徴がありますか?
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小さな親切を先にし、相手の仕事について具体的に聞き、部署と部署をつなぐ人です。1.2万人の行動観察では、評価上位20%の人の89%がエレベーターの「ボタン係」をしていました(一般社員は31%)。
- 他部署の人とは、何を話せばいいですか?
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相手の仕事について具体的に聞くのが効果的です。「新しいプロジェクト、順調ですか?」のように聞き、答えにもう一つ重ねて質問すると、「聞いてもらえた」と感じてもらいやすくなります。
- 仕事のことを聞くと、詮索だと思われませんか?
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関係ができていない相手にいきなり聞くと、そう受け取られることもあります。ボタンを押す、「何階ですか?」と聞くなど、小さな親切を先にしておくと、質問が気遣いに変わります。
まとめ
職場で感じのいい人は、準備をしている人です。準備する、先に与える、具体的に聞く、つなぐ、接点を増やす。この5ステップは、心理学の研究にも当てはまります。
エレベーターで他部署の人と乗り合わせたとき、「お疲れさまです」の次に聞けることを、あなたはいくつ持っていますか。その質問を用意しておきましょう。
参考
- 越川慎司「たった20秒で社内の人望を集められる…1.2万人の行動観察調査でわかったエレベーターの「おいしい立ち位置」」プレジデントオンライン
- Rajkumar, K. et al. (2022). A causal test of the strength of weak ties. Science, 377(6612), 1304–1310. https://doi.org/10.1126/science.abl4476
- Huang, K. et al. (2017). It doesn’t hurt to ask: Question-asking increases liking. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 430–452. https://doi.org/10.1037/pspi0000097
- Burt, R. S. (2004). Structural holes and good ideas. American Journal of Sociology, 110(2), 349–399. https://doi.org/10.1086/421787
- Granovetter, M. S. (1973). The strength of weak ties. American Journal of Sociology, 78(6), 1360–1380. https://doi.org/10.1086/225469
- Mitchell, K. E., Levin, A. S., & Krumboltz, J. D. (1999). Planned happenstance: Constructing unexpected career opportunities. Journal of Counseling & Development, 77(2), 115–124. https://doi.org/10.1002/j.1556-6676.1999.tb02431.x
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