モチベーションとは何か?心理学で解き明かす“やる気”の仕組みと6つの理論

モチベーションとは何か?心理学で解き明かす“やる気”の仕組みと6つの理論

「やる気が出ない」「続かない」「頑張っているのに報われない」──

多くのビジネスパーソンが抱えるこの悩みは、単に意志の問題ではありません。心理学が、モチベーションの科学的な「仕組み」を解明しているからです。

モチベーション活用のプロセスは、次の3つの段階に分かれています。発見(Find)・活用(Apply)・維持(Sustain)のプロセスです。

1)発見(Find):自分が何に内発的に動かされるのかを見つける段階
2)活用(Apply):その動機を仕事や環境に結びつける段階
3)維持(Sustain):内発的モチベーションを長期的に保ち続ける段階

「やる気が出ない」と感じるとき、実はこの3つのいずれかが欠けています。

本記事では、6000人以上の才能開発をしてきた私自身の経験も踏まえ、それぞれの段階に対応する心理学理論を紹介し、モチベーションがどのように生まれ、どのように持続するのかを体系的に解き明かします。

次回公開予定の「実践編」とあわせて読むことで、あなた自身のモチベーションを設計し、再現するための地図となるはずです。

目次

モチベーションとは何か?心理学における定義

私たちは「やる気」や「モチベーション」という言葉を、感情やテンションと同じように使いがちです。しかし心理学では、モチベーションを明確に定義しています。

モチベーションとは、行動を起こし、その方向性と強さを決定する心理的エネルギーである。

つまりモチベーションは、「なぜ行動するのか」を説明する内側のメカニズムです。単に“気分が乗るかどうか”ではなく、私たちの価値観・欲求・目的意識と深く結びついています。

たとえば、同じ仕事でも「上司に褒められたいから頑張る人」と、「自分の成長のために頑張る人」とでは、行動は似ていてもモチベーションの源泉が異なります。この違いこそが、心理学が明らかにしてきた「動機づけの構造」です。

次の章では、モチベーションの源泉を2つの視点から整理します。外発的モチベーション内発的モチベーションです。

これは、心理学者のデシ(Edward Deci)とライアン(Richard Ryan)が提唱した「自己決定理論」で有名です。心理学的には、外発的モチベーションは“外発的動機づけ(extrinsic motivation)“、内発的モチベーションは“内発的動機づけ(intrinsic motivation)”と呼ばれます。

外発的モチベーションと内発的モチベーション

モチベーションの源泉は、大きく 「外発的モチベーション」「内発的モチベーション の2種類に分かれます。

この違いを理解することが、「やる気が長続きしない理由」を解く第一歩です。

外発的モチベーション ― 報酬や評価が行動を生むメカニズム

外発的モチベーションとは、外から与えられる刺激(報酬・承認・罰など)によって生じる動機のことです。たとえば、「ボーナスがもらえるから頑張る」「上司に叱責されたくないから、ノルマを達成する」といった行動がこれにあたります。

この動機づけは短期的には効果的ですが、外的報酬や罰がなくなると行動も止まりやすいという特徴があります。

東大卒のクライアントは、合格までは勉強一筋で頑張ったが、入学した途端、ずっとやりたかったゲームにハマって留年してしまったと語っています。

また、過度に外発的な要因に頼ると、「やらされ感」や「義務感」が強まり、内面的な満足度が下がってしまうことも少なくありません。

内発的モチベーション ― 意味・成長・達成感が原動力になる

一方、内発的モチベーションは、自分の内側から湧き上がる“やりたい”という感情に基づくものです。

「この仕事を通じて成長できる」「自分の価値観に合っている」「やっていて楽しい」など、行動そのものに喜びを感じる状態を指します。

内発的モチベーションが高い人は、外的な評価がなくても自ら行動を起こし、試行錯誤しながら成長を続けます。このモチベーションは長期的に持続しやすく、創造性や主体性の発揮にもつながるとされています。

主役は内発的モチベーション、外発的モチベーションはカンフル剤で「やる気」を持続させる

内発的モチベーションは、やる気を持続させる上での主役(核)であり、外発的モチベーションよりも重要です。しかし、現実の職場や学習の場では、外発的モチベーション(カンフル剤)も短期的な行動や困難な状況を乗り越えるために必須の要素です。

つまり、モチベーションを持続させるには、内発的モチベーションを軸としつつ、外発的モチベーションを特定の状況で戦略的に活用することが重要です。

たとえば、「自分の能力を高めたい(内発)」という軸となる目標に、「昇進すれば収入が上がる(外発)」という一時的なインセンティブを結びつけることで、モチベーションはより強く、長く続きます。

動機を支える欲求構造 ― モチベーションの土台を理解する

「外発/内発」という区分で、モチベーションがどこから生まれるかという“発生源”を見てきました。しかし、人が「なぜ動くのか」をさらに深く理解するためには、その動機の根底にある“欲求構造”に目を向ける必要があります。

強い欲求ほど、強い動機に変わり、モチベーションが持続しやすいからです。

心理学の発展の中で、欲求構造を明らかにしたのが、アブラハム・マズローによる「欲求5段階説」です。マズローは、「人の行動は階層的な欲求によって支えられている」と提唱しました。

この理論は、
「なぜ、外発的モチベーションに頼ると行動が途切れやすいのか?」
「なぜか内発的モチベーションが持続的なエネルギーになるのか?」
を、より体系的に理解するための基礎となります。

モチベーションの基礎構造 ― マズローの欲求5段階説

モチベーションの仕組みを理解するうえで、欠かせないのが心理学者アブラハム・マズローが提唱した 「欲求5段階説」 です。

マズローは、人間の欲求は段階的に構成されており、下位の欲求がある程度満たされると、次の段階の欲求が動機として働くと説明しました。

この理論は、「なぜ人は動くのか?」というモチベーションの根本原理を明らかにしたものです。

欲求の5つの階層

マズローによれば、人間の欲求は次の5段階に分かれます。

  1. 生理的欲求(Physiological Needs)
     生きるために必要な基本的欲求。食事・睡眠・休息・安全など。
     → これが満たされないと、他の欲求は後回しになります。
  2. 安全の欲求(Safety Needs)
     安定した生活・経済的安心・健康・雇用の安定など。
     → 不安やリスクのない状態を求める段階です。
  3. 社会的欲求(所属と愛の欲求)(Social Needs)
     職場・友人・家庭など、他者とのつながりを求める段階。
     → 「仲間に受け入れられたい」「チームの一員でいたい」という動機が強くなります。
  4. 承認の欲求(Esteem Needs)
     他者からの尊敬・評価、または自己評価の向上を求める段階。
     → 「認められたい」「成果を出したい」「成長したい」という欲求が中心です。
  5. 自己実現の欲求(Self-Actualization Needs)
     自分の能力や可能性を最大限に発揮し、意味ある生き方を追求する段階。
     → 「自分らしく生きたい」「社会に貢献したい」といった内発的モチベーションが強くなります。

モチベーションが続かない理由は「段階のズレ」

「やる気が出ない」と感じるとき、その背景には、しばしば「自分が今どの欲求段階にいるのか」と「求めている行動の段階」がズレているという問題があります。

たとえば──

  • 経済的な安定(安全の欲求)を求めているのに、職場では「自己実現」を求められてプレッシャーを感じている。
  • 仲間とのつながり(社会的欲求)を求めているのに、孤立した環境で働いている。

このように、下位の欲求が十分に満たされていない状態では、上位のモチベーションは持続しにくくなります。モチベーションが続かないのは「意志の弱さ」ではなく、欲求の階層バランスが崩れていることも多いのです。

欠乏欲求と成長欲求 ― モチベーションの“質”の違い

マズローの理論で重要なのは、5つの欲求がすべて同質ではないという点です。これらの欲求は、大きく二つに分類されます。

1. 欠乏欲求(Deficiency Needs: D-Needs)

下位4つ(生理、安全、所属、承認)がこれにあたります。

  • 性質: 「なくなると困るもの」であり、不足状態を解消することが目的です。
  • 動機づけの特徴: 欠けている間は強力なモチベーションになりますが、満たされるとモチベーションは弱まるか、多くの場合消滅します。満たされた状態が続くと、人はそれ以上その欲求を満たすために行動しようとはしなくなります。

2. 成長欲求(Being Needs: B-Needs)

上位1つ(自己実現)がこれにあたります。

  • 性質: 「もっとよくしたい」という創造的なエネルギーであり、自己の可能性を追求することが目的です。
  • 動機づけの特徴: 満たされてもモチベーションは消えず、むしろさらに高みを目指すようになります。

つまり、内発的モチベーションは、欠乏を解消する欠乏欲求ではなく、自己を成長させる成長欲求にあるということです。

欲求5段階説をさらに詳しく知りたい方は次の記事も参考にしてください。

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欲求から満足へ ― ハーズバーグの動機づけ衛生理論

マズローが「人は何を求めて動くのか」という“欲求の階層”を明らかにしたのに対し、心理学者フレデリック・ハーズバーグは、「仕事の中で何が人を満足させ、何が不満を生むのか」というモチベーションの二重構造を解き明かしました。

やる気を上げる要因と、下げない要因を区別する

ハーズバーグは、仕事の満足と不満を引き起こす要因を分析し、次の2種類に分類しました。

  • 動機づけ要因(Motivators)
     成長・達成感・承認・責任・自己実現など、仕事そのものに内在する要素。
     → これがあるとモチベーションが高まりやすい。
  • 衛生要因(Hygiene Factors)
     給与・人間関係・職場環境・管理体制など、外的条件に関する要素。
     → これが欠けると不満が生まれるが、整ってもモチベーションが上がるわけではない。

ハーズバーグの発見は、「やる気を上げる要因」と「やる気を下げない要因」は別である、という点にあります。

マズロー理論との関係 ― 欠乏と成長の接点

マズローの階層理論と照らし合わせると、ハーズバーグの「衛生要因」は欠乏欲求に、「動機づけ要因」は成長欲求に対応しています。

つまり、衛生要因が整っていないと不満が生じ、成長欲求を満たす動機づけ要因が存在しないと満足が得られないのです。

この構造を理解すると、よくある思い込みから自由になれます。
「給与が上がればやる気も上がる」「職場環境さえ整えば満足できる」──
実はそれらは“不満を減らす”要因にすぎず、モチベーションそのものを“高める”ことにはつながりません。

現場での実践 ― 「満足をつくる働き方」に変える

多くの人が「やる気が続かない」と感じるのは、自分の仕事を「与えられた条件の中でこなすもの」として捉えてしまっているからです。

もちろん、給与や職場環境(=衛生要因)が整っていることは大切ですが、それだけでは“快適だが退屈な状態”にとどまってしまいます。

本当にモチベーションを高めるには、自分の仕事の中に 「達成」「成長」「貢献」 の要素を、意識的に見つけていくことが大切です。

たとえば──

  • 小さな成果でも「自分が成長できた」と実感できるポイントを探す
  • 誰かの役に立てた瞬間を意識的に振り返る
  • 新しい挑戦を、自分の手で“意味ある仕事”に変えていく

このように、「やる気をもらう」から「やる気をつくる」へと働き方をシフトすること。それが、モチベーションを長期的に高める鍵となります。

この考え方は、後で紹介するジョブ・クラフティング理論──「自分の仕事を能動的にデザインし直す」アプローチにもつながっていきます。

3つの理論で見えるモチベーションの全体像

ここまで、モチベーションの構造を

  • 「外発的/内発的モチベーション」
  • 「マズローの欲求5段階説」
  • 「ハーズバーグの動機づけ衛生理論」

の3つの視点から見てきました。

この3つの理論は、アプローチは異なりますが、すべて「人が行動を起こし、続ける理由」を説明しています。

それぞれの理論を“モチベーションが持続するか、満たされると終わるか”という観点で整理すると、次のような全体像が見えてきます。

モチベーションの3理論を比較した構造マップ

理論持続する(長期)満たされると終わる(短期)
自己決定理論内発的動機づけ(Intrinsic Motivation)外発的動機づけ(Extrinsic Motivation)
マズローの欲求5段階説成長欲求(Being Needs)欠乏欲求(Deficiency Needs)
ハーズバーグの動機づけ衛生理論動機づけ要因(Motivators)衛生要因(Hygiene Factors)

欠乏から成長へ ― モチベーションの“質”を高める鍵

3つの理論はいずれも、

外側から与えられる刺激よりも、内側から湧き上がる成長欲求が、持続的なモチベーションを生み出す

という共通点を持っています。

外発的モチベーション、欠乏欲求、衛生要因は、一時的な行動の促進や不満の解消には役立ちます。しかし、これらは“やる気を起こす”きっかけにはなっても、“やる気を持続させる”燃料にはなりません。

一方、内発的モチベーション、成長欲求、動機づけ要因は、「成長したい」「意味のあることをしたい」「自分の力を発揮したい」という内側のエネルギーを生み出し、やる気を再現的に高めていく力を持っています。

3つの理論を活用するための3つの問い

自分のモチベーションを理解する第一歩は、今どの段階にいるのかを把握することです。以下の3つの問いを通じて、現状を客観的に整理してみましょう。

  1. 内発的/外発的モチベーションのどちらで行動していることが多いですか?
     → 「やらされている感」が強いなら外発的モチベーションに偏っている可能性があります。
  2. マズローの5段階のうち、今満たされているのはどの欲求ですか?
     → 欠乏欲求が満たされていないと、上位の成長欲求は働きにくくなります。
  3. 仕事で不満を感じている理由は何ですか?
     → それは「衛生要因(環境や条件)」の欠如か、「動機づけ要因(成長や達成)」の不足かを見極めてください。

次のステップ:「発見(Find)モチベーションを見つける段階」へ

ここまでで、モチベーションの土台となる心理構造を理解できました。次のステップでは、この構造の中から「自分自身の内発的モチベーション」を見つけていきます。

フロー理論自己概念理論をもとに、あなたが自然に“やる気を感じる瞬間”を発見するプロセスを見ていきましょう。

発見(Find)モチベーションを見つける段階

モチベーションを高める最初のステップは、「自分が何に動かされるのか」を理解することです。つまり、自分の中にある“内発的モチベーション”を発見する段階です。

心理学では、この「やる気の源」を探るために、いくつかの理論が提唱されています。ここでは、その中でも代表的な2つ──フロー理論自己概念理論──を紹介します。

フロー理論― 没頭の中に“やる気の種”がある

フロー理論は、心理学者ミハイ・チクセントミハイによって提唱されました。

彼は、人が最も幸福で充実している瞬間を調べる中で、「挑戦のレベルスキルのレベルが釣り合っているとき、深い集中と満足を感じる状態」があることを発見しました。これを「フロー(Flow)」と呼びます。

この状態では、時間を忘れて活動に没頭し、外的報酬を意識せずとも自発的に行動し続けることができます。たとえば、プログラマーがコードを書いているとき、デザイナーが制作に没頭しているとき、アスリートが競技中に「ゾーンに入る」と感じるとき──それがフローの瞬間です。

フロー状態を経験しているとき、人は「この活動そのものが楽しい」と感じています。つまり、フローを感じる活動こそ、あなたの内発的モチベーションが眠っている場所なのです。

フロー理論を活用するヒント

自分のモチベーションを発見するためには、次の3つを振り返ることが有効です。

  1. 時間を忘れて没頭した経験は何か?
  2. そのとき、どんなスキルを使っていたか?
  3. 挑戦のレベルは自分にとって“ちょうど良い”と感じていたか?

これらを具体的に書き出してみると、「どんな条件で自分が自然に集中できるのか」が見えてきます。そのパターンが、内発的モチベーションを生み出すあなた自身の心理的トリガーです。

自己概念理論 ― 「自分がこうありたい」というイメージが動機をつくる

もうひとつ重要なのが、カール・ロジャーズとドナルド・E・スーパーが提唱した自己概念理論(Self-concept Theory)です。この理論では、人は「自分がこうありたい」という自己イメージに沿って行動する傾向があるとされています。

たとえば、「リーダーとして周囲を支えたい」「専門性を磨く人でありたい」「生徒が伸び伸び育つ教師でありたい」といった理想の自己像(理想自己)が、強力なモチベーションの源となります。

このありたい自分と現実の自分が一致しているとき、人は満足感やエネルギーを感じやすくなり、逆にギャップが大きいときにはモチベーションが下がりやすくなります。

自己概念理論を活用するヒント

  1. 「自分が理想とする人物像」を具体的に書き出す
  2. その人物像のどの部分に共感し、なぜ惹かれるのか?を考える
  3. いまの自分が近づくためにできる小さな行動をひとつ選ぶ

このプロセスは、単なる自己分析ではなく、「どんな行動が自分にエネルギーを与えるのか」を明らかにする作業です。

「発見」から「活用」へ

フロー理論は「どんな状況で集中できるか」を、自己概念理論は「どんな自分でありたいか」を教えてくれます。

この2つを組み合わせると、自分にとって意味のある行動が浮かび上がります。それが、モチベーションを生み出す最初のステップです。

次の章では、こうして見つけた内発的モチベーションを、実際の仕事や環境にどう活かすか(Apply)を考えていきましょう。

活用(Apply)モチベーションを活かす段階

内発的モチベーションを「発見」した後に大切なのは、それを実際の仕事・環境・日常の行動にどう活かすかということです。

どれほど自分の“やる気の源”を理解しても、それを現実の仕事の中で再現できなければ、モチベーションは持続しません。

ここでは、その「活用(Apply)」を支えるジョブ・クラフティング理論を紹介します。

ジョブ・クラフティング理論 ― 自分の仕事を“つくり変える”力

ジョブ・クラフティング(Job Crafting)とは、組織や上司に与えられた仕事を受け身でこなすのではなく、自分自身の関わり方や意味づけを変えることで、仕事そのものを能動的にデザインし直すという考え方です。

この概念は、エイミー・レズニエフスキーとジェーン・ダットンによって提唱されました。彼女たちは、同じ仕事をしていても「苦痛」と感じる人と「やりがいがある」と感じる人の違いを研究しました。その結果、モチベーションの差は「仕事内容」ではなく、「仕事との関わり方」にあったのです。

ジョブ・クラフティングの3つの方法

  1. タスク・クラフティング
     仕事の範囲ややり方を工夫し、自分の得意や興味を反映させる。
     (例:「報告書のフォーマットを自分仕様にして効率化する」「新しい提案書の型を考える」)
  2. リレーショナル・クラフティング
     関わる人間関係を調整し、モチベーションを高める相手とより多く関わる。
     (例:「刺激を受ける同僚と共同で仕事を進める」)
  3. コグニティブ・クラフティング
     仕事の意味づけを変え、価値を再定義する。
     (例:「この資料作成は単なる作業ではなく、チームの成長を支える仕組み作りだ」と捉える)

ジョブ・クラフティングは、「仕事を変える」のではなく「仕事との関係を変える」アプローチです。これにより、自分の内発的モチベーションが自然と発揮できる環境をつくることができます。

「活用」から「維持」へ

モチベーションを「活かす」とは、自分の内発的モチベーションを仕事や環境に反映させ、働き方そのものをデザインすることです。

ジョブ・クラフティングで行動を変えることで、あなたの仕事は「やらされるもの」から「創り出すもの」へと変わります。

次の章では、モチベーションを持続させる(Sustain)ための心理構造──
自己決定理論(SDT)をもとに、モチベーションを再現的に保つ仕組みを解説します。

維持(Sustain)モチベーションを保つ段階

モチベーションを見つけ、活かすことができても、それを長く持続させるのは簡単ではありません。

多くの人が、「最初はやる気があったのに、時間が経つと薄れていく」と感じるのは、内発的モチベーションから行動を始めたものの、心理的エネルギーの再充電がうまくできず、モチベーションが低下したからです。

心理学では、この「モチベーションを再現的に維持する」仕組みを、自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)で説明しています。

自己決定理論(SDT)とは?

自己決定理論は、心理学者デシ(Edward Deci)とライアン(Richard Ryan)が提唱した理論で、「人が自ら行動を続けるためには、3つの基本的心理欲求が満たされる必要がある」と説明します。

その3つとは──

  1. 自律性(Autonomy)
  2. 有能感(Competence)
  3. 関係性(Relatedness)

これらは、モチベーションの燃料タンクのような役割を果たします。どれかが欠けると、モチベーションのエネルギーは失われていきます。

1. 自律性 ― 「自分で選んでいる」という感覚

自律性とは、「自分の意思で行動している」という感覚です。上司や環境にやらされていると感じるほど、モチベーションは下がりやすくなります。

自律性が高い状態では、同じ課題でも「自分で選んで取り組んでいる」と感じるため、行動に主体性と意味を見いだせるようになります。

自律性を高める方法

  • 目的を「与えられたもの」ではなく「自分が選んだ挑戦」として再定義する
  • タスクの順番や方法など、コントロール可能な範囲を明確にする
  • 「自分で決めた選択」を増やす

たとえば、「会社に言われたから資格を取る」ではなく、「自分の専門性を高めたいから資格を取る」と捉え直すだけでも、モチベーションの質は変わります。

2. 有能感 ― 「自分にはできる」という手応え

有能感とは、「自分は環境に働きかけ、成果を生み出せる」という感覚です。これは「自己効力感」と混同されがちですが、両者は異なります。

  • 自己効力感:特定のタスクに対して「自分にはできる」と感じる具体的な信念
  • 有能感:より広い意味で「自分は有能である」と感じる内発的な充実感

有能感が満たされると、人は「自分の行動には価値がある」と感じ、挑戦を楽しめるようになります。

一方で、単調な業務が続くと、「自分にはできる」という感覚(自己効力感)は簡単に満たされますが、「新たな挑戦がない」ことでもあります。そのため、能力が「拡張・向上しているという手応え(能力拡張の感覚:成長実感)」を得にくくなります。

それが積み重なると、「自分はここで成長できていない」という停滞感となり、有能感の欠如へとつながります。

有能感を維持する方法

  • 小さな達成体験を記録・振り返る
  • 成果だけでなく「成長のプロセス」を評価する
  • 自分のスキルが活かせるタスクを意図的に選ぶ

3. 関係性 ― 「人とつながっている」という感覚

関係性とは、「自分は他者とつながっている」「自分の存在が認められている」と感じることです。この欲求が満たされると、人は安心して挑戦でき、内発的モチベーションが高まりやすくなります。

関係性を育む方法

  • 感謝・承認のフィードバックを意識的に伝える
  • 同じ目的を共有できる仲間と関わる
  • 「競争」よりも「協働」の場を増やす

心理的安全性(psychological safety)のある職場では、この関係性の欲求が満たされやすく、結果としてメンバーの自律性と有能感も高まることがわかっています。

モチベーション維持の設計図

SDTの3要素(自律性・有能感・関係性)は、それぞれ独立しているようで、実際は相互に影響し合っています。

欲求欠けると起こる現象満たされると得られる状態
自律性やらされ感・反発主体性・目的意識
有能感無力感・停滞感成長実感・達成感
関係性孤立・不信安心感・一体感

この3つを意識的に満たすことで、モチベーションは一時的な「感情」ではなく、誰もが持続できる「仕組み」になるのです。

「維持」から「再現」へ

モチベーションを保つとは、やる気の波に振り回されるのではなく、自分でモチベーションを設計するということ。

自律性・有能感・関係性の3要素を整えることで、外的条件に左右されず、前向きに行動できるようになります。

次の章では、ここまでの理論をまとめ、「モチベーションは設計できる心理構造である」という観点から、本記事の要点を整理します。

まとめ|モチベーションは設計できる心理構造である

理論を理解すれば、行動の再現性が高まる

「やる気が出ない」「続かない」と感じるとき、私たちはつい“気持ちの問題”として片づけがちです。

しかし心理学が示すのは、モチベーションとは単なる感情ではなく「感情の構造」だということです。

  • マズローの欲求5段階説 が「何を求めるか」を、
  • フロー理論と自己概念理論 が「何に動かされるのか」を、
  • ジョブ・クラフティング理論とハーズバーグ理論 が「どう活かすか」を、
  • 自己決定理論(SDT) が「どう維持するか」を、

それぞれ明らかにしてきました。

体系的に理解することで、あなたはモチベーションを「気まぐれな波」ではなく、再現できる心理的プロセスとして設計できるようになります。

モチベーションを設計する3つの原則

  1. 発見(Find) ― 自分が自然に没頭できる瞬間を見つける
     → フロー理論・自己概念理論を活用し、「やりたい」の根を探る
  2. 活用(Apply) ― 自分のモチベーションを仕事や環境に反映させる
     → ジョブ・クラフティングで「働き方をデザイン」し、やる気を仕組みに変える
  3. 維持(Sustain) ― 自律性・有能感・関係性の3要素を満たす
     → 自己決定理論(SDT)で、モチベーションを再現的に保つ

この3段階を回すことで、一時的なやる気ではなく、継続的な成長エネルギーが生まれます。

モチベーションは「管理」ではなく「理解」から始まる

多くの人が、モチベーションを「高めよう」と努力します。しかし本質的には、自分の心理構造を理解することが出発点です。

理解が深まれば、「自分のやる気のトリガー」と「やる気を奪う要因」が見えてきます。その構造を意識的に整えることで、モチベーションは設計可能な心理現象へと変わります。

次に読む:実践編「モチベーションを高め、維持する方法」

理論を理解した次のステップは、それを実際の仕事・生活の中でどう活かすかです。

次回の実践編では、「発見 → 活用 → 維持」の3ステップを具体的なアクションプランとして紹介します。心理学を“知識”から“習慣”に変える方法を、一緒に見ていきましょう。

→ モチベーションが続かない3つの原因と高め方【実践編】

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この記事を書いた人

才能 プロファイラー/才能開発コンサルタント。
「クライアントを経済的・精神的に最も豊かにする才能開発」がモットー。
著書「才能が9割 3つの質問であなたは目覚める」、「自分の秘密 才能を自分で見つける方法」(経済界)

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