こんにちは! 才能心理学協会・認定講師で二代目経営者の澤田浩一です。
英国のEU離脱、各地で起こるテロ、中国経済の減退、国内の自然災害など経済環境を不安定にさせる出来事が増えています。
また日本は今まで誰も経験したことがない超高齢化社会を迎えます。これからの日本経済は先行き何が起こるかわからないと言ってよいでしょう。
このような経済環境の下では、例えば急に取引先の購買方針が変わって競争が激化したり、場合によっては取り引きそのものを失ったり、業界の構造そのものが変わってしまうということもあり得ます。
インテルのCEOだった故アンドリュー・S・グローブ氏は、企業の事業基盤を揺るがすような力を「10X」の力(企業の競争状態に影響を及ぼす力が「10倍になった」の意味)と呼び、そのような力が及ぶと、これまでの経営手法は役に立たず、新たなものに移行させなければならないと言います。そしてそのような時期を彼は「戦略転換点」と呼びました。
例えば皆さんが小さな街中で書店を営んでいるときに、大型書店が進出したと想像してみてください。
資金、品揃えともに圧倒的な差がある大型書店が進出するわけですから、従来の競争相手とは比べものにはなりません。経営環境そのものが大変化を起こしたと言えます。
そこでは従来の競合相手に対して行っていたようなやり方では勝負できません。やりかたそのものを変える必要があります。
二代目経営者の大切な役割のひとつは引き継いだ会社を存続させることです。ではこのような「10X」の力に対してどのように備えれば良いでしょうか?
「10X」の力がいつから始まるのか、言ってみれば戦略転換点がいつから始まるのかがわかれば何らかの対策は打てるかもしれません。
ところがグローブ氏によると戦略転換点が「ここから始まった」というポイントを挙げることは難しいと言います。むしろ後から振り返っても明確にはわからない場合が多いそうです。
先ほどの書店の例で言えば、いつ大型書店が進出を考え始めたかを知ることはできません。進出してきた時点ではもう遅すぎます。
私たちに出来ることは、普段から気を付けて変化の兆候を掴むことだと思います。
例えば都心部で大型書店が開店したという情報が入ってきたとしましょう。そのときに我が町にも進出する可能性はないかと考えてみるのです。
書店に納入してくれる卸の人の話を聞いたり、出版社の営業の人の話を聞くのも良いでしょう。あるいは書店で働いている社員さんから意見を聴くのも良いかもしれません。
繰り返しますが、戦略転換点がいつ始まるかということを知ることは困難です。
従って「技術が変わった」「顧客の態度、状況が変わった」「供給業者(仕入先)の様子が変わった」など、会社の周囲に何が起こっているかについて注意深くアンテナを張っておくこと。特に中堅規模以上の会社なら、社長が普段接することのない地位が下の最前線にいる人たちの話を聞いてみてください。いつも適切なアドバイスをしてくれる商社がいるなら彼らから聞くのも良いと思います。
そして入ってきた情報に対して今後起こる可能性を、慎重に何度も検討してみましょう。
出来事に対してどのような可能性が起こり得るのか、とことん追求してみることです。
そのときに社内に広く意見を求めて集中的に議論するのも良いと思います。例えばこの新しい技術は「10X」の脅威になるのか、これはビジネスとして成り立つのか、それとも一時的な流行なのかなどです。そしてそこから出来ることを計画立てて始めていきましょう。
また企画倒れになったものや立てた計画がうまく行かなかったとしても捨てずにネタとして取っておいてください。なぜならまた条件が揃えば復活することが時としてあるからです。
例えばアップルが1992年に発表した「ニュートン」という携帯情報端末。この製品は発売後も市場からは評判が悪くまったく売れずに市場から消えてしまいましたが、後にiPADという形で復活し、新しい市場を作りました。
最後にこれが一番大切なことですが、今後起こりうる可能性に対して、どうしたいかは社長の思いひとつにかかっています。
社長は今までも「この会社を~することが私の人生にとって価値のあることだ」という思いで仕事をし、そのための能力(才能)を伸ばしてきたと思います。
戦略転換点を迎えると、経営者や経営陣は最初は「こんなことは考えられない」と否定から始まり、それから不安になり、不安から逃れるために今までのやり方を踏襲したり、場当たり的な方法を取りがちになります。
そうではなく、「この会社で私が本当にしたいことは~だ」という社長の価値観に立ち戻り、そのために現状がどのようになっているのか、今後どのような可能性が起こり得るのか、そしてそのことに対して社長の価値観を達成するにはどうしたら良いのか、新しい能力が必要なのか、もし新しい能力が必要ならそれはどのように磨けば良いのか、そのことを考え続けることが戦略転換点では一番大切だと思うのです。