こんにちは! 才能心理学協会・認定コーチで二代目経営者向けコーチの澤田浩一です。
二代目経営者が事業を引き継ぐときに一番たいせつな要素は何でしょうか?
トップに立ち、人を動かすのだからマネジメント力はたいせつかもしれません。
人を先導するのだからリーダーシップも。
でも私は何よりも「覚悟」がたいせつではないかと思います。
「覚悟」と聞くと、「何をたいそうな」と思われる方もいると思いますが、ここで言う「覚悟」とは、トップとしてのあるべき姿、ありたい姿を認識し、そこに関して起こるすべてをわが身のこととして引き受けることです。
先日、篠原哲雄監督作品、野村萬斎さん主演の映画「花いくさ」を観に行きました。
舞台は安土桃山時代。
戦乱で荒れ果てた京の町に花を生けることで世の中の平穏を願った池坊の僧侶、池坊専好が主役です。
一種、天才肌の人で、会った人の名前が覚えられないという、ちょっと困った人ですが、花が大好きで、花のことになると目の色が変わります。
やがて執行(住職)に抜擢されるのですが、立場上まじめに勤めなければと、今まで好きにやってきた自由奔放な作風を封印してしまいます。
封印したものの自由さがなくなり、すっかり元気をなくしまった専好さん。
執行とはマネジメント、すなわち寺を取り仕切ることだと思い、もう一人の自由な私とは違うものだと考えてしまったわけです。
そして久しぶりに再会した千利休に茶会に誘われるのですが、その席で自分の思いのたけを吐き出し号泣してしまいます。
千利休に励まされ、専好は再び自由奔放な作風を復活させるのですが、時の天下人、豊臣秀吉が利休の才能をねたみ、利休を切腹させてしまいます。
最初は寺の執行としての立場を守り、じっとしている専好でしたが、町人である周りの身近な人たちまでをも秀吉が処刑するにあたり、執行として専好は花を通して秀吉に闘いを挑みます。
もし引き継いだ寺院を守り、マネジメントだけを行うことがトップの役割であれば、処刑されるかもしれない秀吉に闘いを挑んだりはしないはずです。
そこには執行としてのあるべき姿、またありたい姿をきちんと自覚した姿があると思います。
それは花を生けることで世の中の平穏を祈ることが池坊の執行たるものであると専好が覚悟を決めたからではないでしょうか。
前回、日本理化学工業・4代目社長の大山隆弘さんを取り上げましたが、そのお父さんである3代目社長の大山泰弘さんの話も経営者の「覚悟」について学ぶことができます。
日本理化学工業は社員の7割が知的障がい者で有名な会社です。知的障がい者を受け入れるきっかけになったのは、養護学校からの卒業生の受け入れの依頼でした。
会社には知的障がい者を受け入れるにあたり、自分のことは自分でする、一所懸命仕事をするなど、4つの約束ごとがあるそうです。
そしてこの約束事が守られないときは就業時間中でも自宅や施設に帰ってもらうそうです。
実際に約束を守れない人も出てきます。
ですが大山さんは、一度や二度の約束破りではあきらめず、雇い続けるそうです。
並みの社長であれば、そこで雇用をあきらめてしまうかもしれません。
そこには大山さんの過去の経験からくる経営者としての「覚悟」があるのだと思います。
大山さんは子どものころ、海軍大将になりたかったそうです。
ところが戦争が終わって焼野原を見たときに、お国のために国民が一丸となって闘ってきた結果がこれかと思い、これから自分はどうしたら良いかという空虚感を感じたそうです。
その後、友達と一緒に東大を目指したそうですが、自分だけ受験資格を得ることができずに挫折。
一浪して再チャレンジしますが、そこでも不合格となり、やむなく中央大学に進学しました。
大学生になってからも東大に入れなかった失意と挫折感を抱え込んでいましたが、「これからは逆境を受け入れ、その境遇を最大限に活かす人生でいこう」と誓ったそうです。
大山さんが会社を継いだのも創業者であるお父さんが心臓弁膜症という病気を抱えつつ、乗っ取りに遭いかけた会社を必死で守ろうと、逆境の中で奮闘している姿を見たからだそうです。
障がい者もいわば「逆境」の中で生きている人たち。
大山さんは自分のあるべき姿として、逆境を受け入れ、その境遇を最大限に活かすことに経営者としての覚悟を決めたのではないでしょうか。
私が経営者としてやっていこうと本気で思ったのは父から引き継いでしばらくたったある日のことです。
すっかり身体の弱った父から、「もう会社は閉じていいよ。好きにしていいよ。」と言われました。
父からすれば、子どもにこれ以上無理させたくないと思っただと思います。
ですが私はそのときに父の創りあげたこの会社を守らなければと、覚悟を決めました。
まだまだ「覚悟」という点では先人たちに及ばない人生を送っていますが、改めてふんどしを締め直したいと思います。