才能が発揮されない脳科学的な理由──DMN・SN・CENで仕事のパフォーマンスが変わる

才能が発揮されない脳科学的な理由──DMN・SN・CENで仕事のパフォーマンスが変わる

才能が発揮されない背景には、知識や努力不足だけでなく、DMN・SN・CENという3つの脳ネットワークの連携バランスが、思考や行動のパフォーマンスに影響している可能性があることが、脳科学の研究から示唆されています。

実際、「考えはあるのに行動に移せない」「集中しようとしても思考が散ってしまう」といった感覚に心当たりがある人は少なくないでしょう。

スキルアップや成長を目指すとき、多くの人は「もっと知識を増やそう」「努力が足りないのかもしれない」と考えがちです。けれど、思うように成果が出ないとき、その原因は”才能”や“能力”そのものではなく、脳の使われ方や切り替え方にある場合もあります。

この記事では「才能」とは、個人が持つ能力や経験、特性が、特定の状況や条件において、安定したパフォーマンスとして発揮される状態を指します。

そう捉えると、才能は能力そのものではなく、どのような状態や条件のもとで引き出されているかによって左右されるものだとわかります。つまり、同じ能力や経験を持っていても、頭の働き方のコンディション(認知状態)や、意識の向け方(注意配分)が異なれば、才能の発揮のされ方も大きく変わることがあるのです。

才能や強みに溢れるオリンピック選手でも、心身の状態が悪ければいつも通りのパフォーマンスを発揮できないことは誰もが知っています。

私は才能開発と心理学の専門家として、才能についての本を2冊出版し、20年間で6,000人以上の才能開発と目標達成を支援してきました。

「才能が発揮される条件」を脳の働きから捉え直す手がかりとして、この記事ではDMN・SN・CENという3つの大規模脳ネットワークの関係に注目します。

その知見も踏まえ、DMN・SN・CENという3つの脳ネットワークの役割と連携を整理し、仕事のパフォーマンスや才能発揮にどう活かせるのかを解説していきます。

目次

才能発揮を左右する脳の3大ネットワークとは?(DMN・SN・CEN)

DMN・SN・CENとは何か?脳の基本構造を解説

DMN・SN・CENは、人間の思考・注意・行動制御に特に深く関与する大規模脳ネットワークであり、相互の切り替えや連携が認知パフォーマンスと関連することが示唆されています。(Menon, 2011; Menon, 2023)

それぞれの役割を簡単に整理すると、ああ

  • DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)
    内省と想像 ― 自分の内面を見つめ、記憶を整理し、未来を思い描く
  • SN(サリエンス・ネットワーク)
    選択と切り替え ― 内側と外側の注意を振り分け、重要な刺激を選別する
  • CEN(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク)
    実行と集中 ― 課題に意識を向け、考えを行動につなげる

3つのネットワークが連携すると何が起きるのか?

この3つのネットワークは独立して働くのではなく、状況に応じて行き来することで「考える・選ぶ・行動する」という一連の流れを生み出します。

この3つは独立して働くのではなく、状況に応じて行き来しながら機能します。たとえば、DMNで「やりたいこと」を思い描き、SNがそれを取捨選択し、CENが具体的な行動へとつなげる、といった具合です(Sridharan et al., 2008; Goulden et al., 2014)。

「考えはあるのに形にならない」「集中しづらい」と感じる背景には、この連携のバランスが崩れている可能性があります。

DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)とは何か?

DMNの役割:内省・創造性・自己理解の中枢

DMNとは、内省・記憶整理・自己理解・創造的思考を担う脳ネットワークで、意識が内側に向いているときに活性化しやすい領域です。

リラックスしている時や、自分の内側に意識を向けている時に活動しやすい領域です。多くの研究から、DMNは以下のような機能と関係していると言われています。(Raichle, 2015)

主要な4つの機能

1)記憶の整理と自己理解:
過去の経験を思い返して長期記憶に定着させたり、「自分とは何者か」というイメージを作ります。

2)未来のシミュレーションと計画:
望む未来を想像し、目標や価値観を具体的なイメージにします。

3)共感と社会的認知:
他者の気持ちや考えを理解し、円滑な人間関係を築く基盤を作ります。

4)創造性とひらめき:
離れた情報を結びつける自由連想的な思考を通じて、CENやSNと協調しながら、創造的アイデアの「素材」を生み出す過程に関与すると考えられています。

DMNがバランスよく働いていると、自分を理解し、他者とつながり、未来を描き、アイデアを生み出しやすくなると考えられています。

DMNが優位になると起きる問題──考えすぎと停滞

DMNが相対的に優位な状態が長く続くと、反芻思考(雑念モード)や内省に注意が偏り、結果として行動へ切り替えることが起こりにくくなる場合があります。

気分やストレス、環境などの影響もありますが、DMNの働き方もその一因になると考えられています。

たとえば、脳のバランスをとるには、次のような方法があります。

a)内省が足りない/考えが浅いと感じるなら:
スマホや情報から離れて、ぼーっとする時間や「何もしない時間」を持ってみる。DMNが活動しやすくなり、考えや気持ちを整理しやすくなると考えられています。

b)考えすぎて行動が止まるときは:
To-Doリストを作ったり、1つの作業に集中するなど、「実行モード(CEN)」を意識的に働かせる。明確な目標に向けて情報を整理・実行する際に、CENに関わる脳領域が活発化することが知られています。(Seeley et al., 2007)

DMNを整える実践ヒント──内省と行動の切り替え

DMNを活かす鍵は「止めること」ではなく、CENへ切り替える意識づけをすることです。

先ほどのbの事例を活かし、思考や感情の状態を「脳のネットワークの使い方」として捉えると、「私は空想やアイデアばかりで、行動できない性格だ」と感じてしまうケースでも、「DMNが優位になりやすいだけなのかも知れない」と捉え直すことができます。

捉え方が前者から後者に変われば、意識や行動も変えやすくなると思いませんか?そのうえで「CEN的な行動を少し増やしてみよう」と意識すれば、具体的な変化も起こせます。

SN(サリエンス・ネットワーク)の役割と重要性

SNとは何か?脳の「管制塔」と注意の仕組み

SNとは、膨大な情報の中から「今の自分にとって重要そうなもの(重要な刺激)」を察知し、意識の向き(注意)が「内側(DMN)」と「外側の課題(CEN)」のどちらに相対的に向きやすくなるかを調整する役割を担うと考えられています。(Menon & Uddin, 2010)

主要な3つの機能

1)取捨選択と優先順位:
膨大な情報の中から、脳の限られたリソース(認知資源)をどこに投入すべきかを決定します。「今、これに集中すべきだ」という対象を瞬時に選別し、背景にある不要なノイズを抑え込むことで、必要な対象に注意を向けやすくします。この「優先順位付け」が機能することで、私たちは情報の洪水の中でも、今取るべき行動にエネルギーを集中させることができます。

2)主観的な重要度フィルター:
過去の経験や感情に基づき、「今の自分にとって重要そうだ」と感じる刺激(情報など)を自動的に検出・優先する働きがあります。これは心理的な“価値判断”というより、脳が主観的に重要と“感じ取る”プロセスに近いと考えられています。(Menon, 2015)

コア・コンセプト(一番大切な価値観)を明確にすると判断や決断が速く正確になるのは、SNによる重要刺激の選別がスムーズになるためだと私は考えています。


3)ネットワークの指揮(モード切り替え):
内省モード(DMN)と実行モード(CEN)のあいだで、どちらを優先的に働かせるかを調整します。状況に応じて、この切り替えをうまく行うことが、柔軟な思考や行動に関係していると考えられています。

外部刺激に振り回されると、才能や強みを活かした判断がしにくくなる

SNが外部刺激に過剰に反応する状態が続くと、判断基準が他者や環境に引きずられやすくなり、自分の価値観や関心に基づいた選択がしにくくなる可能性があります。その結果として、自分の才能や強みや活かした行動が取りにくくなることがあります。

他人の目やSNSの情報など、外部からの刺激に過剰に引きずられると、SNを含む注意システムが「何を重要(重要な刺激)とみなすか」を外部の基準に合わせてしまうことがあるからです。

その結果、本来の自分の価値観よりも、他人の評価や流行に沿って判断しがちになります。才能という観点から言えば、才能を活かすべき方向性が見えにくくなったり、発揮しにくくなったりするリスクを孕んでいます。

SNを守る環境設計──判断力を保つ具体策

SNを守るには、意志力よりも「注意が奪われにくい環境」を先に整えることが有効です。

SNは自動的に作動し、情報に反応するからです。SNが「これは重要だ」と一旦反応しても、「いや、でも今、それは重要ではない」と判断し、目の前の作業に戻ることは可能ですが、コストがかかります。

この一連のプロセスにも、認知エネルギーは消費するからです。エネルギー効率を考えると、スマホ通知をオフにする、見る情報を選ぶなど、SNが振り回されない「環境づくり」が不可欠です。

CEN(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク)とは?

CENの役割:集中力・実行力・意思決定の中枢

CENとは、注意・論理思考・意思決定を担い、考えを行動へ変換する実行ネットワークです。

意識を自分の「外側」に向け、論理的思考や注意力を一点に集中して、目標に向かって行動するときに重要な役割を果たします。(Cole & Schneider, 2015)

主要な2つの機能

1)ワーキングメモリ(脳の作業机):
必要な情報を一時的に保持しながら処理
し、複雑なタスクや問題解決を進める「作業机」のような役割を担います。

例えば、カフェの雑音すら耳に入らないほど集中して、1時間で複雑な報告書を一気に書き上げるような、脳のリソースを全力投入している状態です。

2)認知的制御(自分を律する力):
「ちょっとスマホを見たい」「疲れたからやめたい」といった目先の誘惑や衝動を抑え、「今はこれを完成させるべきだ」という目的(理性)を優先させる力です。行動の切り替えや「やるべきこと」をやり続ける場面で重要になります。

例えば、「YouTubeを見たい」という誘惑を、「これが終わったら自分へのご褒美にしよう」となだめ、作業を継続させる力のことです。

CENの過負荷が招く決断疲れと無気力

CENに過剰な負荷がかかると、判断や行動に必要な「考える余力(認知資源)」を温存しようとする傾向が強まることがあります。

情報過多やマルチタスクによってワーキングメモリ(脳の作業机)がいっぱいになるため、CENが効率的に働きにくくなるからです。

その状態が続くと、脳はエネルギーを節約しようとし、「何もする気が起きない」「考えるのもおっくう」といった“無気力に似た感覚”が起こる場合があります。

感情やストレスなど他の心理要因も影響するので、CEN過負荷との関係は推測段階ですが、こう考えれば、ビジネス現場における「意思決定疲れ」の理解と解消に役立てることができます。

事例で理解する脳の連携─企画書作りの思考プロセス

「DMN・SN・CEN」の解説をしてきましたが、3つの連携プロセスを、「企画書作り」を例に紐解いてみましょう。脳内プロセスの厳密な再現ではありませんが、DMN・SN・CENの役割関係を理解するための「見取り図」として、イメージを掴めるはずです。

集中から不安へ──CEN・SN・DMNの行き来

実際の仕事では、CEN・SN・DMNが短時間で何度も切り替わりながら使われています。

1)集中(CEN):
「よし、企画書を仕上げよう!」と決めた瞬間、CENが働き、意識を外側のタスク(企画書)に向け、一気に構成を書き進めます。

2)不安の検知(SN):
企画書を見直したとき、「上司に突っ込まれるかも」「このデータで十分かな」といった不安やリスクのサインを、SNや関連する脳の評価ネットワークがキャッチします。その結果、注意が内側(自分の考え・感情)に向きやすくなります。

3)雑念のループ(DMN):
「もっとリサーチすべきだろうか?」「でも締め切りが・・・」「どうしよう・・・」と、DMNが中心となる内省・反芻のループに入り、手が止まってしまうことがあります。

4)再連携(SN):
しかし、そこで、「今は完璧さよりも一旦形にすることが大事だ」と気づきます。SNや前頭前野を含む脳の制御システムが、「状況の再評価」を行い、「もう一度CENを働かせて作業に戻ろう!」という方向に注意を切り替えます。

企画書作り一つをとっても、DMN・SN・CENが行ったり来たりしながら、思考や行動が進んでいくと考えると、自分の状態を俯瞰しやすくなります。

「悩みがち」を脳の癖として捉え直す視点

こうしてみると、行動が止まる状態は性格ではなく、脳ネットワークの反応パターンとして理解できます。

これらは全て無意識で起きているので、自覚するのは難しく、その結果、「私はあれこれ悩んで手が止まりがち」というネガティブな自己概念を持ちがちです。

けれど、「自分のSN(管制塔)が不安という刺激に敏感なんだな」と脳の機能として捉えることができれば、次にどうするか? 主導権はあなたの手に戻ります。

来年の目標を「一旦形にする自分になる」にするなら、SNが「ここ、抜けているかもしれませんよ」というサインを出しつつも、それに飲み込まれず「まずは形にする(CEN)」と決めて最後までやり遂げる。

もし後で上司に指摘されたら、「実は、私も気になっていたんです。すぐ修正します」と軽やかに対応できる自分になればいいのです。

才能を最大化するための脳の連携と実践戦略

脳のネットワークから見ると、才能発揮は、能力や経験そのものだけでなく、それらを活かしやすい「頭の働き方のコンディション(認知状態)」や、「どこに意識やエネルギーを向けているか(注意配分)」が整っているかどうかにも影響されると考えることができます。

トップアスリートの世界を見れば明らかです。どれほど才能や実績があっても、状態が整わなければ安定したパフォーマンスは発揮されないからです。

現時点で、DMN・SN・CENのネットワーク活動と「才能」や「創造的パフォーマンス」を直接結びつける実証研究はまだ限られていますが、脳の切り替え柔軟性(認知的柔軟性)がパフォーマンス変動と関連するという報告が増えつつあります(Beaty et al., 2016; Tang et al., 2021)。「才能が発揮される条件」を脳ネットワークの観点から捉えることは、科学的にも十分に理にかなっています。

才能を発揮するには、新しいスキルや知識を手に入れることだけではなく、DMN・SN・CENが、それぞれの役割を発揮しやすい状態や切り替わりのタイミングで働けるようにサポートすることも、とても重要だとわかります。

DMN・SN・CENを活かす日常の設計ポイント

・SNが外部刺激に振り回されすぎないよう、スマホ通知や情報のノイズを減らし、「本当に大切なこと」に気づける環境を整える。

・DMNで生まれたアイデアや不安を、必要に応じてCENにつなぎ、「小さな一歩」に落とし込む。

・CENが過負荷になりすぎないよう、タスクを分解・整理し、「今やること」を絞る。

脳のエネルギーを節約しながら成果を出す方法

「脳の連携」を意識すると、

・DMN・SN・CENのどこに偏っているのか?

・偏ったせいでかかった負荷を解消するには?

・どう調整すればバランス良くなるのか?

自分の状態の把握や調整がしやすくなり、才能を発揮しやすい土台を整えやすくなります。

DMN、SN、CENとその連携という観点から、自分を整える視点を取り入れてください。脳の切り替えを意識すれば、脳のエネルギーを節約しながら、パフォーマンスを高められるようになります。

才能の見つけ方や活かし方については次の記事を参考にしてください。

あわせて読みたい
才能の見つけ方完全ガイド -必要な知識、事例と実践法のすべて- 「自分にはどんな才能があるんだろう?」 「才能がわかればもっと活躍できるのに」「才能を発揮できれば、人生はもっと豊かになるはずだ」 そんなふうに思ったことはあ...
あわせて読みたい
才能の活かし方完全ガイド:強みを最大化しキャリア・ビジネスで成果を出す4つの戦略 この記事は、才能を活かせずに悩むあなたへ向けた、実践的なロードマップです。自分の才能をモチベーションと結びつけ、顧客や時代のニーズを読み解き、市場で通用する...

参考論文一覧

  • Menon, V. (2011). Large-scale brain networks and psychopathology: a unifying triple network model. Brain, 135(10), 2838-2859.
  • Menon, V. (2015). Salience Network. In Brain Mapping: An Encyclopedic Reference, 597-611.
  • Menon, V. (2023). Integrative Brain Network and Salience Models of Psychopathology. Biological Psychiatry.
  • Menon, V., & Uddin, L. Q. (2010). Saliency, switching, attention and control: a network model of insula function. Brain Structure and Function, 214(5-6), 655-667.
  • Raichle, M. E. (2015). The brain’s default mode network. Annual Review of Neuroscience, 38, 433-447.
  • Sridharan, D., et al. (2008). A critical role for the right fronto-insular cortex in switching between central-executive and default-mode networks. Proceedings of the National Academy of Sciences, 105(34), 12569-12574.
  • Goulden, N., et al. (2014). The salience network is responsible for switching between the default mode network and the central executive network: Replication from DCM. NeuroImage, 99, 180-190.
  • Seeley, W. W., et al. (2007). Dissociable intrinsic connectivity networks for salience processing and executive control. Journal of Neuroscience, 27(9), 2349-2356.
  • Cole, M. W., & Schneider, W. (2015). Functional connectivity in central executive network supports goal-directed adaptation. PNAS.
  • Beaty, R. E., Benedek, M., Silvia, P. J., & Schacter, D. L. (2016). Creative cognition and the default network: A functional connectivity analysis of the creative brain. Neuropsychologia.
  • Tang, Y.-Y., et al. (2021). The neuroscience of effort and cognitive control. Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

年収2倍になった才能の見つけ方無料動画セミナー《受講者5,000名以上》

自分の才能を活かしてキャリア・ビジネスで自己実現したい方へ。才能の見つけ方、才能をお金に変える方法を動画とメールの講座をお届けします。 自分の才能を活かしてキャリア・ビジネスで自己実現したい方へ。才能の見つけ方、才能をお金に変える方法を動画とメールの講座をお届けします。

この記事を書いた人

才能 プロファイラー/才能開発コンサルタント。
「クライアントを経済的・精神的に最も豊かにする才能開発」がモットー。
著書「才能が9割 3つの質問であなたは目覚める」、「自分の秘密 才能を自分で見つける方法」(経済界)

プロフィール詳細はこちら

目次